離別

孝くんと個人的な連絡を絶ってから、2週間が過ぎた。

 

こういう時、職場でギクシャクしないよう気遣うのは本当に大変なことだった。

 

 

 

 

 

ある日の夕方。
外来を終えた私は、患者さんのことで孝くんにどうしても相談しなければならないことがあった。

 

 

症例を二人で検討し、私が持参したCT像を見ていた孝くんが、

 

『これ切ったほうがいい』

 

と言った。

 

 

そうですか、と私が答えると彼は

 

『腫瘍の場所を考えると、鏡視下じゃなくて左開胸したほうがいいね。
年齢的にも、横隔膜を切離せずにやれるといい』

 

とアドバイスしてくれた。

 

 

孝くんに言われると、疑問や不安な部分が払拭できる。

 

『わかりました。
ありがとうございました』

 

 

私は画像とカルテを片付けて腕に抱えると、すぐ隣りにいた孝くんが静かに問う。

 

『…もう会ってくれないのか?』

 

私は不意の彼の質問に、一瞬身構えて手を止めた。

 

『今の俺を見てはくれないのか。
梨江子と別れるなんて、考えただけでも気が狂いそうだ』

 

 

私はこれまでの孝くんの、良いところもそうでないところも懐かしく思い出しながら、しかしやはり例の件だけは生々しく傷として残っているのだった。

 

 

『心に掛かる部分を、見ないふりしてお付き合いすることは、私には難しいです。
ごめんなさい、本当に』

 

孝くんは、そうか…と消え入るような声で言った。

 

 

 

『あの夜、直人さんと会えてよかったです』

 

『あいつとはどんな話をしたの?』

 

孝くんは少しの笑顔を取り戻して私にたずねる。

 

 

 

私は直人さんとの会話を思い起こしながら、

 

『直人さんは、お父さんのことが大好きですね』

 

と伝えた。

 

『えっ、そう?』

 

孝くんは照れ隠しのように笑い、父親の顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の帰り道。

 

私は久しぶりにお酒が飲みたくなり、一人でdittoに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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