ドイツ料理『essen』②

会もそろそろお開きという時間に差し掛かった時、直属の上司である澤口先生が言った。

 

『仙石先生も、退職したらまた違った出会いがあるかもね。
ほら、今まで浮いた話聞いたことないから』

 

 

すると、酔っている孝くんが

 

『いや、仙石先生はモテモテだよ。
他の病院とも、色々ご縁が多いみたいだからねえ』

 

と、暗に青山病院の件を晒し上げる。

 

私は自分でもわかるくらい、さっと顔色が変わった。

 

さっきのことを根に持っているのか…と思ったが、もちろん言い返すことはできなかった。

 

 

すると、すかさず岩佐くんが酔ったふりをしながら

 

『木坂先生も、叩けば埃が出るんじゃないすかあ?』

 

と、冗談とも本気とも取れる言い方で応戦し、その場の空気が固まった。

 

『…岩佐センセ、飲み過ぎよ』

 

すかさず師長がフォローに入る。

 

孝くんはここぞとばかりに、しかし笑顔を保ちながら、

 

『岩佐先生はどうなの?
いつも職場では、あっちこっち忙しそうだよねえ。
ああ、最近はそうでもないか』

 

とエスカレートしていく。

 

 

そこへ再び師長が、

 

『はい、やめやめ、ストップ!
今夜は仙石先生を送る会なんだから』

 

と仕切り直し、澤口先生がお開きの挨拶を私に求めた。

 

私は拍手の中で花束をもらい、とはいえ、あと1週間ある残された勤務を全うしなければならなかった。

 

 

 

 

 

店の外に出て解散すると、ばらばらと皆が帰路を歩いていくのに、孝くんが

 

『タクシーだろ?
途中まで一緒に乗ろう』

 

と私の隣りに来る。

 

 

私は、聞こえないふりをしてその場を離れ、

 

『岩佐くん、送ってくれる?』

 

と、岩佐くんに声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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