宝物のおすそ分け。

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『宿題の絵日記帳』

(今井信吾著、リトルモア)

http://www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=965

一見すると不思議な本。でも幸せな気分になれます。

これは約30年前に描かれた、ある家族の絵日記。

生まれつき難聴だった著者の娘さんが通う聾学校(日本聾話学校)で、生徒と先生が会話の練習に使う補助にするため、毎日絵日記を宿題としていたそうだ。画家だった著者が、娘さんが2~6歳の4年間に愛情込めて描き続けた、その絵日記の貴重な記録が、この一冊にまとまっている。

著者いわく、

なにしろその日その日のハプニングばかりがモチーフなのでゆっくり構想を練ってなどいられない。短い時間のなかで絵も文もボールペンの走り書きというようなことになってしまった。

というのだけど、その走り書きが、実に味わい深いのだ。そして、それぞれの絵に添えられた、簡潔なコメントも。

アイスクリームをほしがり、泥んこ遊びをして服を泥だらけにし、雷におびえて大泣きし、父親の個展におめかしして行き、お祭りでたこ焼きを食べ、いたずらをして大切なコップを割り怒られ、キャンプに行き、友達と遊び、お手伝いができるようになり…。そんな毎日を経て、娘さんは元気に、たくましく、大きくなっていく。そして、徐々に会話と声を獲得していく。そんな姿を見て、喜ぶ筆者の姿が目に浮かぶようだ。

私も今子育て真っ最中だけど、やはり子育ては「不可逆」だなとつくづく思う。よちよち歩きしていたと思ったら、かけっこできるようになり、自転車に乗れるようになり、サッカーボールをぼーんと蹴られるようになり…と、昨日と今日と明日で、子供の姿はもう全然違ってく。可愛かったあの時の姿は二度と戻ってこない。だからこそ、記録をしておきたい。

スマホやデジカメがなかった当時、著者にとって、この絵日記こそが、幸せな姿を残しておく貴重な記録媒体だったのだ。何十冊かのノートは、本当に、著者と家族にとっては宝物であっただろう。何だかとってもよく分かるから、この本を読んでいて、何度も泣けてきそうになってしまった。

30年経って、主人公だった娘さんは、もう3児の母。父と同じく画家の道を歩んでいるという。そして彼女の姉も1児の母で、デザイナー。たくさんの愛情を浴びるように受けて育った2人が活躍していることが、本当にうれしい。筆者ももう80歳。幸せな姿は続いているようだ。読んだ方も、みんなの宝物を少し分けてもらったような感じ。本当に素敵な本です。

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