さらば、古きよきパ・リーグよ。

Facebook

「『あぶさん』になった男 酒豪の強打者・永渕洋三伝」

(澤宮優著、KADOKAWA)

http://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g321309000150/

「あぶさん」。プロ野球が本当に好きな人なら、誰でも知っているであろう名作漫画だ。主人公のあぶさんこと景浦安武は、酒豪の強打者。物干し竿と呼ばれる長いバットを持って、ここ一番で快打を放つ、大人の香りを放ちまくる選手だ。もちろん架空の人物だけど、本物なんじゃないかと思わせるような雰囲気を放っていた。子供の頃からパ・リーグファンの私にはとても嬉しい存在だった。

そのあぶさんには実在のモデルがいた。永渕洋三。近鉄、日本ハムで計12年在籍、あの安打製造機・張本勲と首位打者を争い、最後には分け合った好打者だ。そして、何よりも、あぶさんに負けない酒好き。本書では、もう現代では滅多に聞けなくなった豪放磊落なエピソードがお腹いっぱいになるくらい紹介されている。まるで豪放磊落がユニフォームを着ているような、酒好きが野球しているような。

プロ野球の世界に飛び込んだのは、契約金で飲み屋のツケを返すためだったとか。新人の時は、代打でプロ初ホームランを放った後、同じ試合中に投手として登板。大谷のずーっと先を行っていたわけだ。本当に天才肌の人でもあった。オールスターに出場辞退した選手の代理で選ばれたのに、ひどい二日酔いで、仮病使って試合をさぼっちゃったことも(笑)。万事、酒中心の生活だったのだ。

彼の打撃理論は単純明快。つまりは「初球を狙え」だった。

「初球が一番打ちやすい球だ。それを見逃して追い込まれてボール打つ奴はバカだ」

そして、

 「プロに入ったら、なるべく練習をせんようにしてました」

すなわち、合理的に、無駄な体力を使わないよう、集中して仕事に取り組んでいた。それは、彼が小柄で、体力の面で不利だったことを十二分に理解した上での生き残り術だった。すごく「彼らしい」考え方だな、と思う。

現役引退の時の言葉もすごい。

記者から「酒を飲んでいなかったらもっとやれたのではないか」と問われたことがある。「いや酒を辞めていたらここまでやれたわけがない。酒を飲みたい一心でやってきたから」 ときっぱりと答えた。
それに、と付け加えた。「もう凡打ばかりすると、俺に飲まれる酒が可哀想だよ」

野球好き、パ・リーグ好きだった親父は、小学生の私をよく西宮、藤井寺、大阪の各球場に連れて行ってくれた(3つとも、既にもうこの世には存在しない)。スタンドはガラガラで、酔っ払いのおっさんがやじりまくる声が場内に響き渡る。グラウンドでは渋い選手たちが、シブいプレーを繰り広げていた。私にとって、球場は大人の世界を教えてくれた先生だった。永渕洋三、彼は本当に歩くパ・リーグ、生きるパ・リーグだったのだ。もうこんな選手は二度と出てこないだろう。さらばよきパ・リーグ。

1+

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする