語学書を楽しもう。

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「寝るまえ5分の外国語 語学書書評集」

(黒田龍之助著、白水社)

一説によると、世界には約6900の言語があるそうな。そのうち、語学書が存在している言語はどれくらいあるのやら。この本は、ありそうでなかった「語学書の書評」を試みた、貴重な(無謀な)?本なので、そんなことをふと思ってみたりした。

版元が、語学書を大量に出版している白水社というのもまた味わい深い。編集を担当している人も、そこには思いが至らなかったのかな?なんて考えたり。そもそも、ストーリーもドラマもヒキも不要な語学書で書評を書くこと自体、至難の業なんだろう。

ロシア語専門家の本書著者は、とても誠実に、あまたある語学書の中から慎重に手堅くチョイスしている。その点でまず好感が持てる。あと、何とかそれぞれの語学書で違いを出そうと悪戦苦闘している姿も見て取れて、著者には本当にお疲れ様です、と申し上げたい。

例えば、タイ語のテキスト(「ニューエクスプレス タイ語」)。

蚊に刺されたところを掻こうとするユキさんを止めるため、「ええと、ユキさんはこの歌を知っていますか」と注意を逸らそうとする。なぜって「掻けば掻くほどかゆいから」である。ここで「~すればするほど…」を学ぶ。

ユニークな会話の中にタイ語の文法が無理なく紹介される。だから「読めば読むほど面白い」のである。

スペイン語のテキスト(「解説がくわしいスペイン語の作文」)。

本書には読者を惹きつけて止まない「隠れキャラ」があちこち登場することに気付いた。

その名はホセ。繋がりのない短文の中に、このホセがたびたび登場する。しかも、これがなかなか微妙な立場。(中略)

「ホセを愛している人なんて誰もいない。彼はすっごく感じが悪いからね」

何もそこまでいわなくても!会ったこともないホセに同情してしまう。

自らの専門分野のロシア語(「露文解釈から和文露訳へ」)となると、さすがに思い入れは強い。

著者は戦前から多くの翻訳を手がけてきたプロである。その人が苦心してこのような参考書をまとめたのだ。現在、このレベルを超えるロシア語参考書があるかは、大いに疑問である。

デンマーク語(「デンマーク語の入門」)も。

(掲載されている読み物の)この物語は次のように始まる。「これから君にお話をしてあげよう。(…)お話というものは人間みたいなもので、古くなればなるほどよさが出るものなのだ」

もしかして、よい語学書もそうなのか?

語学書に採用されているイラストもまた、アーティスティックなものもあって楽しい。

語学書は文学書と同じように、ときに感動することもある。目の前に新しい世界がどんどんと広がっていく感動。そんな語学書もあるのだ。

こう断言する著者。ぜひそんな新しい世界をのぞいてみたくなる、手引書のような楽しい一冊。

http://www.hakusuisha.co.jp/book/b240524.html

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