カラヤンとワイセンベルクの、ラフマニノフピアノ協奏曲(2)

先日の続きである…。
カラヤン指揮で、ピアノがワイセンベルクの、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」。オケはベルリンフィルだ。

前回と重複するけれども、この演奏のDVD版の動画を改めて貼っておきたい。

さて、前回は、『1984年の歌謡曲』という本を引き合いに、最高ランクの褒め言葉としての「変態的」という表現をご紹介した。他の誰もやらないような、際立って個性的で秀れた、といった具合に、格別に評価しているときに用いられる言葉なのだ。
そして、僕は、このワイセンベルクこそ、「変態的」な(…あくまでも、褒め言葉です)名ピアニストであった、ということを申し上げようとして、紙幅が尽きてしまったのである。


カラヤンは、このラフマニノフのピアノ協奏曲において、ときに華やかで、ときにメランコリックな、例えるならば、チャイコフスキーの曲のような演奏を聴かせてくれる。ストリングスやホルンなどは、何か情念が込められているかのような音である。
それに対して、ワイセンベルクは、そんなカラヤンに相反するかのように、実に怜悧で理知的なピアノで応えている。…とは言えども、このふたつの演奏は、決してコンフリクトはしていない。不思議と溶け合っているのだ。

このワイセンベルクのピアノは、斯様にして楽譜に対し、冷静に忠実に弾いているのだけれども、時として、燦めくような音を聴かせることがある。例えば、第1楽章の始まりから2分過ぎたところのアルペジオの部分などである。
(DVD版でも、この部分の演奏を聴くことが出来ますが、上に貼った動画では音質があまり良くないので、改めてCD版を下に貼っておきます。クリックすると、当該の開始2分くらいから再生します)

まるで、掌にすくったダイヤモンドか水晶の、小さな粒の数々が、指の間から零れ落ちる様を描いたような響きである…。このような演奏を聴かせてくれるのも、ワイセンベルクの大きな魅力のひとつなのだろう。

さてさて、上に貼った、DVD版の動画を観て、大変に驚くべきことがある。これは、僕だけが驚いているのかと思っていたら、Amazonのレビューで全く同じことを、しかもピアノの調律を職業にしている方が書いていらっしゃったのだ。
まずは、下の写真を。何かにお気づきだろうか?

このDVDは、カラヤンらしく、カメラワークも実に凝っている。これは、ワイセンベルクを真上から撮った場面だ。

注目すべきは、ワイセンベルク自身のお姿ではなく、ピアノの鍵盤の方である。なんと、白鍵が、ボコボコに波打っているのである(!!)。ちなみに、これは、確かにスタインウェイ…。下は、この直後の場面の写真。ロゴが見て取れる。

通常、ピアノは調律時に、それぞれの白鍵の高さがピタリと揃うように厳格に調整されるものなのだ。白鍵の上から専用の定規を当てて、寸分の狂いがないように水平にされる。これは、タッチにも影響することなので、場合によっては、鍵盤の下に0コンマ1ミリ未満の非常~に薄い紙を入れて調節されることもあるくらいなのだ。それ程に、これはデリケートなことなのである。

なのに、なのに、ワイセンベルクは、鍵盤がこんなボコボコに波打っているスタインウェイを、さも平然と弾きこなして、あのような珠玉の音を奏でているのである…。これを、「変態的」(…あくまでも、褒め言葉です)と言わずして何であろうか?モノ凄いことである。
しかし、どう見てもピアノが未調整のまま、どうして収録が決行されたのだろう? ストリングスの弓の動きさえ揃えるという、カラヤンが指揮している作品だ。何故、ピアノの鍵盤の高さは揃えなかったのか、実に不思議なのである…。

…という訳で、カラヤンとワイセンベルクのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」をご紹介しました。これは、ヴァレンティーナ・リシッツァのラフマニノフとは、別の魅力が色々と溢れている作品です。是非、ご堪能ください…。

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いちばん上の写真に写っている本は、これ。ロシア系クラシック音楽の入門書として最適だと思います。幾つかの作曲家のエピソードをマンガでも収録し、解りやすい内容の一冊です。

留守key著『スラーヴァ!ロシア音楽物語: グリンカからショスタコーヴィチへ』
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