コルグのFM音源ガジェット、Volca FMはこれが凄いのだ…

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昨日は、よく晴れた一日だったけれども、本日は打って変わって曇り空。どうやら、梅雨にまた逆戻りのようだ。でも、雨降りとならないだけ、まだ多少ましなのかも知れない。(自転車乗りなので、雨はちょっと困る…)

前回の投稿では、コルグのVolca FMというFM音源ガジェットで作った、映画『インターステラー』のテーマ曲(冒頭部分)を貼ってみた。
FM音源とは、’80年代に一斉を風靡したシンセサイザーの方式のひとつである。ヤマハのDX7が特に有名だ。あの当時、国内外を問わず様々なライブ映像を見ると、キーボード奏者は大抵、DX7を弾いていたものだった。

そのくらい爆発的に、このデジタルシンセサイザーは普及していき、それまでのアナログシンセサイザーを駆逐してしまったように見えた。それが、逆に’90年代に入ってからの、反動としてのアナログモデリングシンセサイザーに繋がっていくのだけれども、それは又別の話…。
DXシリーズは、のちにPCM方式のデジタルシンセサイザーが他社から発売されるまで、シンセサイザーの世界では最右翼であり続けていたと思う。

実は、僕は、そのDX7のユーザーだったわけではなくて、以前の投稿でも書いたように、パソコンの内臓音源としてのFM音源に親しんでいた。それは、高校入学時に親から買って貰ったパソコン、NECのPC-8801mkIISRである。
このPC88SRは確か、世界で初めてFM音源を搭載したパソコンという触れ込みだった。それまでのパソコンは、ピーッというビープ音やPSGというピコピコ音の音源しか内蔵していなかったのだ。

そこにきて、このような本格的デジタルシンセサイザー内蔵のパソコンが登場したのである。当時からYMOファンだった僕は、この「デジタルシンセサイザー内蔵」というキャッチコピーに飛びついた。
実際のところ、FM音源はたったの3声分しか発声できなかったのだけれども、PSG3声分と相まって、全6声で演奏される音楽に、僕は魅了されていった。時あたかも、ゲーム音楽の幕開けの時代だったのだ。

FM音源は、特有の明瞭なキャラクターをその音色の中に持っている。しかも、その構造上、どのような種類の音でも出すことが出来る、とも当時は言われていた。ただ、倍音の複雑な打楽器(シンバルなど)は苦手だった。
シンセサイザーは、どのような方式のものでも大体そうなのだけれども、発信器から音を出して、そこから加工を色々と加えていって音色を作る、という仕組みになっている。

PC88SRに内蔵されていたFM音源は、その発信器(オペレーター)が4つ入っているタイプだった。かたや、DX7は、6つ入っていたのである。いわば、パソコンのFM音源は廉価な普及版、DX7のそれはプロ仕様といったところだろうか。
そして、Volca FMのFM音源は、オペレーターが6つ入っているタイプ。謂わばDX7のエミュレーターなので、同じ内部構造を模しているのだ。下は、Volca FMに付属の、アルゴリズムリストという、6つのオペレーターの組み合わせ一覧である。

このようにして、6つあるオペレーターを縦に並べたり、横に並べたりして、まずは音色のキャラクター決めをする、というわけなのだ。全部で32通りもあるのだ。
大雑把に言えば、縦に並べると、金属的で尖ったような音色になり、横に並べると、丸みを帯びた柔らかな音色に近くなる。でも、これは他のパラメーターの影響もあることなので、一概には言えないのだけれども。

でも、このアルゴリズムを変えることによって、その音色の性格がガラッと変わるのは確かである。僕は高校生当時に、FM音源を人で例えた説明を何かで読んだことがある。
6つあるオペレーターは6人の歌い手に相当し、アルゴリズムはその人たちが並んでいる組み合わせ。そして後ろの人は前の人をコチョコチョとくすぐって悲鳴を出させる。これがFM(周波数変調)音源の「変調」ということなのだ、と。

だから、オペレーターが横に並んでいると、くすぐる人がいないので、悲鳴が起きにくい=音色が穏やかになる。一方で、縦に並んでいると、次々にくすぐりが起こるので、悲鳴が激しくなり、音が尖って来るのだ。
そこで、このVolca FMには、多分これまでのFM音源機器には見られなかったであろう、特有のつまみがひとつ装備されている。それは、アルゴリズムを一瞬のうちに次々と変化させるためのつまみである。

上の写真の、ALGRTMというつまみがそれ。これは他のつまみと同様、左右に無段階に回すことが出来る。330°くらい回るだろうか。このつまみは、コルグに当時在籍していた、Volca FMの開発者の発案らしい。
FM音源の音色のキャラクターを変えるには、このアルゴリズムを変更するのが一番手っ取り早いというのは、’80年代からよく知られていたことである。僕が当時使っていた書籍にも、そのような記述が見られる。


(出典:『FM音源スーパーサウンド』秀和システムトレーディング刊)

上のように、「音色のエディト法」という項で、アルゴリズムはその筆頭として「最も簡単な方法で」「とにかく少し音を変えてみたい、というときに有効」云々と記されている。
しかしながら、瞬時にアルゴリズムそのものを変更するための仕組みは、パソコンの内蔵音源にも、他のシンセサイザー音源にもこれまで実装されていなかったのではないか。僕はそう記憶している。

ところが、30年以上の時を経て、Volca FMには、つまみを回すだけでアルゴリズムを簡単に変更できる仕組みが、小さなつまみという実にさり気ない形で付いたのである。
実際には、FM音源の音色作りは複雑至極。そのため、数あるパラメーターをなるべく感覚的かつ簡単に扱えるようにしよう、という工夫は、のちの様々なシンセサイザーの機種で実践されて来た。このアルゴリズムつまみは、遂に到達したその極北であろう、と思う。

言ってみれば、FM音源の世界における大発明だ。これを考案した元コルグ開発者のTさんは、きっと天才である。コロンブスの卵のような発想を豊かにお持ちのかたなのだろうと思う。
僕も、このアルゴリズムつまみの恩恵は大いに預かっている。前回載せた、『インターステラー』の音楽で使用した音色作りも、プリセット音色のアルゴリズムを変更するところから始めたのである。

そこを手始めとして、あとは他のつまみを次々に回して、好みの音色に仕上げていった。つまみで用意されていないパラメーターについては、階層を辿って行って弄ることになるので、そこはやや面倒であるけれども。
それにしても、あの難解と言われたFM音源を、ここまでシンプルにかつドラスティックに弄れるようにした功績は大きいと思う。僕は、この小さいつまみがだいぶ気に入ったので、他のパラメーターも弄れる「拡張つまみ」をいつか出してくれないだろうか?コルグさま…。

そんなことを考えつつ、この先はどんな音楽を鳴らしてみようか…と夢想しているところである。

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いま、上に挙げた『FM音源スーパーサウンド』という書籍についてAmazonで調べてみたら、定価の数倍の値段で売りに出ているのに気づいた。ひゃー、でも僕の本はヨレヨレで、もうそこまでの価値はないと思う…。でも一応読むのには不便なほどではないので、今後も参考として利用するつもり。

『FM音源スーパーサウンド―PC‐8801 mkII SR/PC‐8001 mkII SR/PC6601 SR/PC‐6001 mkII SR』
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