休みを利用して、山を3つ登り、ついに下山へ…(その2)

先達て、高尾山、小仏城山、景信山と順に登頂した、山登り日記。これが9回目だと思う。今回が、このシリーズの最終回。(投稿の一覧は、こちら

景信山から小仏バス停まで、深い森の中の尾根道を歩いて下山することにしたのである。その途中、ハチに付き纏われ、そのはずみに転んだ。左側が、上下とも泥だらけになってしまったのだ。
さて、下山を始めてから45分ほど経つと、下の方からゴウゴウという何かが流れる音が聞こえて来た。はじめは、高尾山の6号路を登ったときのような沢があるのだろう、と思ったのである。

しかし、それは違った。実は、道だったのだ。高速道路である。景信山の山頂手前で遥か遠くに見た、あの中央自動車道が、今ここにいる場所のすぐ下を走っているのだ。それを思うと、随分と歩いて来たものだなあ、と感慨深くなる…。

またもや、写真がソフトフォーカス気味で分かりにくいけれども、上の写真の繁みの間から、高速道路上の車が見えていた。僕は、この道路の光景を何故か、非常に懐かしい思いで見つめたのを覚えている。
ほんの1日の山登りなのに、下の世界が遠く離れてしまっていたように思えたのだ。例えるならば、ちょっとした浦島太郎の体験である。もしくは、「地球か…何もかもが懐かしい」といったようなw

この場所以降は、登山道の脇に低いガードレールが置いてあるようになった。随分重そうなコンクリートの脚が付いている。設置はさぞや大変だっただろう、と思う。
最後に僕は、途中から苦楽を共にしてくれた、杖代わりの枝を登山道の繁みの中にそっと置いた。他にも似たような枝が何本も落ちている。いつか此処から誰かが登るときに、またこれを拾って使うだろう。

上の写真は、景信山から出た直後に撮ったもの。登山道入り口の標識である。本当に、周囲に何もない場所にある入り口だった。ここから、あとどのくらい歩けばバス停に着くのだろう?と、ふと思う。
下山の最中は、ずっとつま先に力が掛かっていたので、足の指先がジンジンと痛くなってしまった。帰宅してから見たら、小指が左右とも靴擦れしていたのである。やはり、下山は大変だ…。

あとは、景信山の周囲を巡っていた舗装道路を歩く。上の写真のように、路面が何故か2種類だったのである。普通のアスファルトと、小さなプラスチック片を混ぜたような材質と。
僕は、喉の渇きを猛烈に覚えた。しかし、コンビニなどある筈もないと思われた。山と舗装された道しか見えないのである。道は大きくU字状にカーブした。すると、その先に見えたものは…。

な、何と、自動販売機である。道路沿いにある作業場のような場所の入り口に、ポツンと設置されていたのだ。相変わらずボヤけ気味の写真だけれども、かえって神々しくも見えるw
僕は、しがみつくようにして、自動販売機にずらりと並ぶ飲料を見た。おおっ、サイダーがある。110円。これは良い、と思い、お金を入れてボタンを押す。直後に売り切れのランプが点いた。ラッキーなことに、最後の一本だったのだw

トップの写真が、そのサイダーの缶。後日、勤務先の塾の自動販売機でも売られていることに気づき、また買った。その後で撮った写真である。僕にとって、これは命の水のようなサイダーである。
強めの炭酸による喉の刺激が、実に心地良い。一気に飲み干すと、僕は再び緩やかな下り坂の舗装路を歩き始めた。右側には、高尾山口で見かけたような川が流れていた。飛沫が如何にも涼しげである。

この道を歩いているのは僕ひとりだろう、と思っていた。しかし、サイダーを飲み終わった直後、後ろにもうひとり歩いていることに気づいたのである。60代くらいの男性だった。ハイキング用の軽めの服装をしている。
きっと、僕のあとから、景信山を下山したのかもしれない。または、小仏城山から下山して、このバス停への道に至るルートもある。その内のいずれかだろう。一見したところ、やはりややお疲れの様子であった。

景信山から下りて、15分ほど経った頃、広い空き地のようなバス停留所に、一台の白い乗合バスが停車しているのを見た。先頭の電光掲示を見ると、高尾駅と表示されている。そう、これだ。このバスに乗れば良いのである。
運転手さんは、バスの外で手持ち無沙汰気味に時間を潰していた。出発までまだ、暫くの間があるのだろう。僕は、バスの隣に立っていた時刻表を見た。

この時間帯は、1時間につき1本か2本しかバスが出ていない。実に良いタイミングで来たようである。僕は、車内に入り、持参したタオルを空いたシートに敷くと、そこに座った。ああーっと、身体が一気に休まる想いがする。
実は、Tシャツの中は、すっかり汗を掻いていたので、停留所に設置されているトイレに入り、3枚目のTシャツに着替えれば良かったのかも知れない。しかし、十分にクーラーの効いた車内から僕はもう、動くことが出来なくなっていたのだ…。

5分ほどたって、バスは3〜4ほどの乗客を乗せて走り出した。すぐ、景信山から眺めた高速道路の高架橋の下をくぐって行く。バス路線の道幅は狭い。対向車が来たら、そのままではすれ違いが出来なかっただろう。
バス停に止まる度に乗客は増え、終点の高尾駅に到着する頃には満員となっていた。僕は、下車すると、高尾駅のトイレでTシャツを着替えた。それから、家へのお土産に、おからドーナツを買ったのである。

振り返ってみるに、大変に充実した楽しい一日だった。文字通り、異世界の体験だったと言ってもいいだろう。でもこれは、僕が嘗て、木曽の裏山で過ごした子供の頃の夏休みと、ほぼクロスオーバーするものなのである。
そういった点で、これは僕の回顧の山登りでもあった。人は何故、山に登るのか?という問いがある。今の僕にとっては、子供だった日々を懐かしむ行為であり、そのことを通した異世界への探訪とも言うことが出来る。

高尾山は、紅葉が綺麗なことでも知られる。秋になったらまた休みの日を作って、もう一度登ってみようか…。帰りの電車の中、持参したラジオでNHK-FMを聴きながら、ふとそんなことが頭を過ぎる。
沿線のビル群の向こうには、夏の厚い高層雲と西に傾いた陽が見えた。茜色に変わりつつある、紫がかった空がいつもよりずっと濃く感じられる。宵の明星が、そこで高く、一際に明るく輝いていた。

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