Blu-rayで映画『メッセージ』を観た。余りにも深い哀しみと希望が最後、一遍に押し寄せて来た作品だったのだ…

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トップの写真は、先達て久し振りに立ち寄った、大きなな沼のある公園の針葉樹林。レンズを真上に向けて撮った。同じような構図の写真を、今年のお正月に行ったときにも撮影したのを覚えている。(その投稿は、こちら

さて、先日、実に遅ればせながら、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ(原題:Arrival)』をBlu-rayで観た。この監督は、『ブレードランナー2049 』も手掛けている。
僕としては、未見の『ブレードランナー2049 』を近いうちに(こちらも遅ればせながら)観ようと考えているので、その前に予習として『メッセージ』を観たつもりであった。監督の作風などを確認しておこうと思ったのである。

ところが、この『メッセージ』、大変に素晴らしい作品だったのだ。正直に言って、もう胸がいっぱい、お腹いっぱいの状態で、暫くはこの映画の余韻に浸っていたい。だから、他の作品はちょっと観たくない。そんな感じである…。
従って、『ブレードランナー2049 』を観るのは、少々先送りにしようかと思う。…と言っても、1〜2週間くらいのことかも知れないけれども。

この映画『メッセージ』について説明するのは、実に難しい。こんなところが良かったんだよとか、凄かったんだよとか言おうとすると、うっかりネタバレになってしまい兼ねないのである。
僕は、この作品を見る前に、YouTubeで幾つかの解説や紹介の動画を観た。勿論、ネタバレしていないものだけである。例えば、岡田斗司夫氏は、ネタバレしていない解説動画とネタバレのそれとを分けて上げておられる。実に、賢明だと思うw

ネタバレしていない解説動画は、こちら。…と言っても、10分くらいで、この映画の映像美について一言触れているだけなのだけれども。でも、この作品を観てみようと思わせるに十分な内容だと思う。(下の動画は、当該の箇所から始まります)

下は、ネタバレをしている方の解説動画。実際に『メッセージ』を観た方たち向けであろうかと思う。いつもながら、実にディープな濃い解説を聞かせてくれる。流石さすがの岡田斗司夫氏である…。既にこの映画を観た方は、必見ですぞ。(長さは1時間弱ほど)

あと、下の動画は多分、映画会社のプロモーション映像だと思う。『攻殻機動隊』の押井守監督、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前田真宏監督がインタビューに登場して、映画『メッセージ』の魅力について短く語っている。

この動画で押井監督が最後に、『10年経っても観られるべき映画。残すべき映画』と話しておられる。全く仰せの通り。異星人のファーストコンタクトものでは、例えばスピルバーグ監督の映画『未知との遭遇』が余りにも有名。
その一方で、ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』も、今世紀に作られた異星人ファーストコンタクトの映画作品として、長く記憶されるだろうと思う。人類は、SF映画で遂にこの領域にまで達したのだ、というマイルストーンとして。

上にも書いたように、この映画について語るのは難しい。でも、一言で言うならば、この作品は、時間と言語コミュニケーションに関するSF映画だと言えると思う。宇宙人は出てくるけれども、壮大な宇宙空間や複雑なメカなどは一切登場しない。それでも、これはSF映画なのである。
僕は、2年ほど前に、この映画の原作であるテッド・チャン作『あなたの人生の物語』を読んだ。この映画が東京国際映画祭で上映されると聞いて興味を持ったからである。原作は読んだけれども、映画はとうとう観に行かず仕舞いだった。

僕は今回この作品を観て、原作で書かれていた時間概念と言語との関係性は、映画の方ではより一層密接に描かれていることを感じた。実は、この両者の密着度というのが、この映画の最大の肝なのだ。
僕は以前、新約聖書の勉強のために、古代ギリシア語を少し学んだことがある。そのときに読んだ文法書に、古代ギリシア人は時間をカイロス的に俯瞰する視点を持っていた、という趣旨の説明が書かれたくだりがあった。

カイロス的に俯瞰するとは、時系列(クロノス)的に時間の流れを見るのとは大きく異なり、今も昨日のことも100年昔のことさえも、等距離的に捉えることが出来る、という視点らしい。現代の我々にはちょっと想像がつきにくいけれども…。
今回、映画『メッセージ』を観て、この映画で語られている時間感覚とは、そのカイロス的なそれとよく似ているのではないか、という気がした。尚、上の岡田氏のネタバレ解説では、この時間感覚について非常に良い例えを用いて説明されている。是非ご参照を…。

あと、僕が感じたのは、これも岡田氏が指摘していることだけれども、キリスト教でいう予定説の思想がベースになっているようだ、ということだ。これはモチーフのひとつとして使われているのである。
予定説とは、大雑把に言うと、「私たちの人生って神様が全部計画しておいてくれているんだよね」という考え方である。但し、『メッセージ』では、神は登場しない。あくまでも、発想の源のひとつが予定説なのでは?ということなのだ。

上の岡田氏の動画の視聴者コメント欄には、米国で予定説は主流ではない、との旨の書き込みがあったけれども、多分、それは関係ないだろうと思う。あるものについて、それが主流であるかなしかに拘らず、時としてひとはその影響を受けてしまうものだからだ。

例えば、明治から昭和にかけての基督者である内村鑑三は、札幌農学校で信仰告白に署名した後、留学先の米国でその信仰を深く涵養させた。その後(弟子たちも含め)、著作でよく「神の経綸」という表現を用いたのである。
経綸(けいりん)とは、つまり計画のことだ。内村鑑三も多分、予定説の影響を強く受けていたと思う。それは、きっと米国で身につけたものなのであろう、と考える。

映画『メッセージ』では、俯瞰的な時間の捉え方(特に未来に対して)と予定説的な発想、そして宇宙人が用いる不思議な言語(Blu-rayの盤面に描かれている円が、それ)が、それぞれ立体的に織り交ぜられストーリーが進行していく。

僕は、この映画の最後、何か大きな気持ちに圧倒される思いで観終わった。実に実に深い哀しみと、それと同じくらいに大きな希望。それらが渾然一体となって、心に迫って来るのである。
こんな複雑な(でも、決してやり切れないような後味の悪いものではない)感慨で映画を観終わったのは、生まれて初めてだった。この点で、『メッセージ』は、確実に僕へ何か新しいものを贈ってくれたように思う…。

この複雑な感慨は、他で例えると何に似ているだろうか、と考えた。多分、初めて『100万回生きたねこ』を読み終えたときの気持ちに非常に近いような気がする。読んだことのある方なら、その気持ちをきっとお分かりになるだろう、と思う…。

映画『メッセージ』の中で、主人公が身につけることになった、あの能力。それは、ゆくゆく人類が皆、体得していくことになるだろう、ひとつの超能力である。きっと、12機の宇宙船で地球にやってきた宇宙人は、それを地球人に授けに来たのだ。
この能力を身につけて、人類はどうなるか?映画の中では、宇宙人がある理由を提示するのだけれども、具体的にはよく分からない。きっと、これは観終わった我々にも与えられた通達のようなものなのか…。(だから、邦題は『メッセージ』というわけ…?)

時間とは、右から左へ徐々に流れて行くようなものではなくて、大きな一枚のタペストリーに描かれた絵を眺めるようなもの、と岡田斗司夫氏は解説していた。
そこには、物語の始まりから結末まで、全て見えるように描かれている。但し、我々がそれを書き換えることは出来ない。それこそが、銘々の「人生の物語」なのである。

ひょっとすると、本当は、そのような時間の中を我々は生きているのかも…。ただ、その俯瞰的な見方を未だ知らず、過去から未来へと流れているものだと思っているだけなのかも知れないのである。

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下は、DVD版の『メッセージ』。出来ることならば、是非この作品もBlu-rayで観ることをお勧めしたいと思います。アカデミー賞を受賞した圧倒的な音響。あと、故ヨハン・ヨハンソン氏による、凝りに凝った音楽も、高いレートのサウンドで楽しむことが出来ます。それから、この映画は白と黒の発色がとても重要。Blu-rayならば、その辺りのコントラストも含めて十分に表現されていると感じることが出来るでしょう…。

『メッセージ (オリジナルカード付)』 [DVD]
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