【芥川賞直木賞予想 #158-2】木村紅美「雪子さんの足音」

木村紅美「雪子さんの足音」(「群像」2017年9月号所収)、読了。

社会人中堅の主人公・薫は、上京して目にした新聞で、昔の知り合いである「川島雪子」の訃報を知ることになる。
彼女は大学生のころに住んでいたアパート「月光荘」の大家さんだった。

2階が賃貸、1階が大家さんの住居という構造で、雪子さんは「サロン」と称してたびたび薫に食事の世話をしてくれた。

雪子さんは同居していた息子(ニート)に先立たれ、人恋しさと上京したての若者を飢えさせまいとする気遣いをもって薫に食事を用意してあげたのだった。「サロン」には他に借りている小野田という女性も初中終招かれていた。
だが雪子さんのおもてなしはだんだんエスカレートする。事あるごとに薫を食事に誘い、さらにはときどきお小遣いを渡してくるようになる。さらには自分の部屋に〈不法侵入〉している気配もあった。
はじめは好意に甘えていた薫も、そのエスカレートぶりに次第に疎ましくなってくる。
ついに彼女に引導を渡すものの、それは彼女との〈訣別〉とはならず、〈お節介〉に身を委ねる生活から自分の身を引き剥がせない。
それでも恋人との別れや隣人の女性からの受け入れられない好意などで、彼のこころは「月光荘」から離れ、引っ越しすることになる。
時間は作品冒頭と同じ、それから20年近く後へと向かい、薫は雪子さんの死をSNSで〈検索〉すると、薫がいなくなってから雪子さんにお世話になった住人が少なからずいるようだった。彼女の〈お節介〉をうまく受容できた人たちがいるのだ。
雪子さんが過剰だったのか、薫が頑なすぎたのか。
お互い、それぞれの〈間合い〉をうまくはかれなかったことを、薫は彼女との思い出を懐かしみつつあてどなく思った。
うまい筆運びだと思う。技術はあると思う。他愛のないストーリィだけれど、ページを捲らせてくれる作品だ。
人と人との距離のとり方は、案外難しい。相手が背負っているものがこちらから見えないとしたら、なおさら。
読みながらそんなことを思わせてくれたが、もう少しなにか引っかかりを設けて欲しかった。でなければ〈いい話〉で終わる。作者がそれでよければなのだが。