テロリスト(1)

ブログを始めたばかりで、いきなり物騒な話題で恐縮だが、去年の十二月にあった、ベルリンのテロを憶えておられるだろうか。

クリスマスマーケットにトラックが突っ込んで、十二人が亡くなった事件である。犯人は、アニス・アムリというテュニジア人で、犯行後トラックをおいて逃走し、行方がわからなくなっていた。

それから数日後の十二月二十三日未明、彼はなんと私の住んでいるセスト・サン・ジョヴァンニ市で警官に射殺されるのである。

ドイツからフランスを経由して鉄道でイタリアに入り、ミラノ中央駅で降りて、バスでセスト・サン・ジョヴァンニまで来たらしい。セスト・サン・ジョヴァンニ市というのは、ミラノ市の隣にあって、実際にはミラノの一部のようになっている、人口八万人ほどの衛星都市である。ミラノの中心のドゥオモ広場まで直通の、地下鉄一番線の終点になっている。この地下鉄の駅の上に、ミラノから北へ伸びている鉄道の駅がある。駅前広場は近郊へのバスのターミナルになっている。

この駅前広場で、午前三時頃、彼は二人組の警官に職務質問をされた。リュックの中身を見せろといわれて、いきなりリュックからピストルを取り出して、警官の一人に発砲して、肩に負傷させた。もう一人の警官がすぐ応戦して、一発で射殺した。

この次第を、私どもはお昼のニュースで唖然として見ていた。駅までは、私の家から歩いて十分もかからない。ミラノに出る時にはここから地下鉄に乗るし、息子は毎日ここから電車に乗って大学に通っているのである。その見慣れたセスト・サン・ジョヴァンニ駅の映像が、どのチャンネルでもトップになっている。それどころか、インターネットで見てみたら、この映像は全世界の新聞のトップにもなっているのである。

La Repubblicaより
foto Daniele Bennati, 23 dicembre 2016

面白かったのは、インタビューされた内務大臣や警察の偉い人が、皆ものすごく嬉しそうで、「イタリアに入国したとたんに犯人が確保されたのは、これは我が国の警備体制がうまく機能している証拠である」と、言外に「ドイツが逃した犯人をイタリアが捕まえた!」というのを匂わせていることだった。イタリア人は、かなりドイツ人に対して、劣等感とまではいかなくても、対抗意識があるからだ。私も正直いって、普段そのへんをパトロールしているうちの町のお巡りさんが、即座に応戦して相手を射殺するような能力の持ち主だとは思っていなかった。これからは見直さなければならない。

さて、一段落した時、私ども住民に残ったのは、「アニス・アムリはセスト・サン・ジョヴァンニに一体何をしに来たのだろうか」という疑問である。セストは、ミラノ郊外の、住宅、商店街、オフィスビル、倉庫や小さな工場の混ざった地域で、何の用事もなくふらりと来るような所ではない。幾つかの新聞では、駅前からでている長距離バスにのって南イタリアに逃げようとしていたという説が紹介されていたが、でも南イタリアに行くのだったらミラノ中央駅から鉄道で行くのが普通ではないだろうか、これはやっぱり、セストに住んでいる誰かのところにしばらく匿ってもらいに来たのではないか、という気がしてならない。職務質問されたときに、駅前広場でなにもせずにいたのは、誰かのお迎えを待っていたということではないだろうか。(つづく)

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