ナヴィリオ
8月15日は日本ではお盆だが、イタリアでは聖母被昇天の祝日で、休日である。この休日は、普通には、「聖母被昇天の祝日(Assunzione della Beata Vergine Maria)」という、長くて堅苦しい名前では呼ばれずに、フェッラゴスト(Ferragosto)といわれている。これは、古代ローマの初代皇帝アウグストゥスが自分の誕生日に因んで制定した Feriae Augusti (アウグストゥスの休日)に起源を発するという。紀元前18年の制定というから、キリスト教より古い起源を持つわけだ。
この日は、ヴァカンスの中心の日と考えられていて、休暇を取るのにこの日を含む一週間に、前後に一週か二週間ほどくっつけて休む人が多い。だから、8月15日は大都市が一番がらんとする日でもある。大手のスーパーマーケットは別として、普通の商店は今週はみな閉まっている。
フェッラゴストに続く8月の後半は、好きな季節のひとつである。北イタリアのポー川流域平原では、ふつう7月の後半がいちばん暑く、日本のように夜も30度を越して、しかも湿度が高く蒸し暑いのだが、8月に入ると猛暑がしだいにおさまってきて、地中海沿岸特有の穏やかな暑さになってくる。特に8月の後半になると、運のよい年は、晴れて微風のある日が続く。暑いのだが、不快ではなく、心地よい暑さ。
私も今週は休みを取り、家の掃除などをしながらのんびりしている。
昨日のフェッラゴストの日には、夕方に犬を連れてダルセナDarsenaに行ってみた。
ミラノが昔運河の街であり、水運がミラノの産業の発達に大いに貢献したのはよく知られているが、ナヴィリオと呼ばれる運河は二十世紀中にほとんど埋め立てられて道路になり、今はミラノ市南部のナヴィリオ地区にしか残っていない。この地区は、運河沿いにレストランやカフェが並び、ミラノ人にとって夜「飲みに行く」スポットになっている。
ダルセナは、現在残っている二つの運河、ナヴィリオ・グランデとナヴィリオ・パヴェーゼが交わる部分の、半月形をした人工の小さい湖をさす名前であり、要するに昔のミラノの港である。
家を出て、近くのSesto FS駅から地下鉄に乗る。日本では、地下鉄に犬を連れて乗っているのを見たことがないが、禁止されているのだろうか。たとえ禁止されていなくても、日本の地下鉄はいつも満員だから、犬連れでは乗りにくいだろう。こちらの地下鉄では、犬を連れて乗っている人が普通にいる。切符は、交通局の規則を読むと、犬にも普通の人間用の切符が一枚要ることになっているが、以前駅員に聞いてみたら、「この犬は小さいから、いい」と言われたので、それからは切符なしで乗っている。(うちの犬は柴犬である。こちらの犬はラブラドールとか、大きめの犬が多いので、柴犬はずいぶん小さく見える。)
地下鉄をポルタ・ジェノヴァ駅で降りて200メートルほど歩くと、ナヴィリオ・グランデに突き当たる。人出は、多くもなく、少なすぎて寂しいこともなく、ちょうど良いくらい。外国人観光客は三分の一くらいか。犬連れの人も多いので、けっこうミラノ人が散歩に来ているようだ。
ナヴィリオ・グランデ沿いの遊歩道をしばらく行くと、ダルセナがある。以前来た時には汚い水にゴミが浮いていたりしたが、2015年のミラノ万博の機会に改修され、水もきれいになっている。
ダルセナからポルタ・ティチネーゼを通り、ドゥオモ広場まで歩いて、帰りの地下鉄に乗る。私はあまり暑さを感じなかったが、犬にはこたえたようで、冷房の効いた地下鉄に乗るとごろんと寝てしまった。