英詞対訳:「彼が殺した男」(トマス・ハーディ)

THE MAN HE KILLED (Thomas Hardy)
「彼が殺した男」(トマス・ハーディ)

Had he and I but met
もし、アイツと俺が
By some old ancient inn,
昔なじみの古ぼけた酒場で、出会っただけだったなら
We should have sat us down to wet
ふたりは腰をおろして
Right many a nipperkin !
ビールを何杯でも酌み交わしていただろうに!

But ranged as infantry,
だが、歩兵として列せられ
And staring face to face,
お互いにらみ合いになっていた。
I shot at him as he at me,
アイツが俺を撃ったように、俺もアイツを撃ち
And killed him in his place.
その場で、アイツを殺したんだ。

I shot him dead because —
俺はアイツを撃ち殺したのさ。なぜかって…
Because he was my foe,
アイツは、俺の敵だったからだ。
Just so: my foe of course he was;
ただそれだけ。アイツは確かに、俺の敵だったんだ。
That’s clear enough; although
そんなの判りきったことだけどな。

He thought he’d ‘list, perhaps,
アイツは、志願して入隊したんだ。多分な。
Off-hand like–just as I —
…ちょうど俺みたいに、ぶっきらぼうなタチで
Was out of work–had sold his traps —
仕事にありつけず、身辺の物はもう売り払っていた…
No other reason why.
ほかに理由なんか、なかったんだ。

Yes; quaint and curious war is !
そうさ。奇妙奇天烈だ、戦争なんて!
You shoot a fellow down
どこかの酒場で知り合っていたら、おごってやるか、
You’d treat, if met where any bar is,
半クラウンの銀貨でも恵んでやるようなヤツを
Or help to half-a-crown.
撃ち殺してしまうんだからな。

(Translated into Japanese by shironeko, 2010 & 2017)


この詩の主人公は、戦争中に自分が撃ち殺してしまったひとりの敵兵について思いをめぐらしている。
…俺もそして、きっとアイツも、貧しさのうちに謂わば食い扶持を求めて、軍隊に入ってしまった。もし、戦場ではなくてどこかの酒場でアイツと出会っていたら、一緒にビールでも酌み交わす間柄になっていたのになあ…と。

この世では、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなことによって、お互いに憎み合ったり恨みあったり、時にはこの詩の中にあるように殺し合ったり、といったようなことが起こってしまうものなのかも知れない。

この詩は一見すると、戦争反対を唱えた作品のようにも見える。
でも、実はそれに留まらず、この詩の作者である英国の作家・詩人、トマス・ハーディが詩の創作を通じていちばん訴えていたこととは、この世の不条理だったのだ。ハーディは、これを「無神経な偶然性」と名付け、人は皆このようなものに操られている、と訴えていた…。

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