非常に興味深い映画、『ブレードランナー2049 』を僕なりに解釈してみるのだ…

前回の投稿の最後に書いた通り、Blu-rayで『ブレードランナー2049 』をやっと観ることが出来た。2日かけて2度は観たけれども、特典映像も含めて視聴時間はもう、8時間を超えたくらいだろうか…。でも、まだ観足りない気がしている。

僕は普段、劇場へ出掛けて映画を観に行くという習慣が余りない。まあ、多くて精々、年に1〜2回程度だろうか?専ら、家で観る派である。だから、どうしても「今更?」と言われそうなタイミングで鑑賞することになってしまう。
その代わりと言っては何だけれども、自室のBlu-ray鑑賞の音環境は、5.1chのサラウンドを構築してある。画面は、20数インチの余り大きくない液晶モニターだ。まあ、それについては、前の人の頭が邪魔などということが起きさえしなければ、それで良いw

さて、『ブレードランナー2049 』だけれども、前作の『ブレードランナー ファイナルカット』のBlu-ray版に増して、サラウンドの効果が素晴らしい。
例えば、映画本編が始まる直前、様々なロゴが登場するところでは、まず一発目にSONYのそれが現れる。そのときに、「ドーン」というティンパニの音を重低音にしたようなサウンドロゴが流れるのだ。その時点でもう、サラウンドが痺れるほどに効いているw

勿論、映画本編の中も、実に素晴らしい音響である。先程の「ドーン」は、前作でも象徴的に用いられていたけれども、それは今作でも十分に継承されている。あの音を耳にするだけで、嗚呼ここはブレードランナーの世界…という気分に没入できるのだ。
サラウンドは他に、スピナー(空飛ぶ自動車の様なもの)の飛行音や、水の流れる音、雨の降る音、ハチの群れが飛ぶ音(!)などでも、効果をよく発揮している。それは、まるで、昔聞いたバイノーラル録音のように、頭の周囲で鳴っている。

そんな訳で、この『ブレードランナー2049 』に限った話ではないけれども、家で映画鑑賞する際には、是非ともサラウンドを活用されることをお勧めしたいと思う。それがBlu-rayであれば尚更である。

この作品は、画面の構成や演出も特徴的だ。これは、主にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の手腕と作風によるものだと思う。同じ監督の『メッセージ』では、ロッキー山脈から吹き降ろされる雲の波が実に印象的だった。他に、宇宙人との直接面会シーンでの霧など。
この監督はどうやら、SF作品では、このようなふわっとした雲や霧の演出がお得意のようなのである。その様な手法が、『ブレードランナー2049 』でも遺憾無く生かされていると思う。

この映画では、公害による大気汚染が極度に酷くなったロサンゼルスという舞台設定になっているので、大気中にはモヤの様なものがかかっている。他には、ラスベガスへ行ったときの砂塵の様な深い霞とか。
また、ある肝心な人物に会いに行くシーンでは雪が降る。これは、前作では雨が降っていたあのシーンに対する返歌なのだろう。では何故雪なのか?という問いに対して、映像特典で監督が「僕がモントリオール出身だからね。雪が良いんだよ」と語っていた。

この様にして、『ブレードランナー』では、どちらかと言うとビビッドな画風とサイバーパンクな方向性を持っていたのに対して、今作『ブレードランナー2049 』では、何処か印象派絵画の様な柔らかな画と加えてレトロでスチームパンク的なガジェットの登場する作品となっていると思う。

レトロなのは例えば、今作の主人公Kが乗るスピナー(上の写真の右側)のデザインだ。まるで70年代のスーパーカーの様である。例えるならば、ランボルギーニ・カウンタックみたいな、懐かしい角ばった形状だ。
他には、顕微鏡や望遠鏡で対象物を調べる場面で、レンズの倍率を切り替えるのが、やけにアナログ的。レンズを上下に一枚一枚カチャリカチャリと捲らせている。今でさえ、ピンチイン・ピンチアウトだと言うのに…。

これについては、監督自身が「スティーブ・ジョブズが現れなかった世界を想定した」と語っている。つまり、もしiPadやiPhoneの登場しなかった世界ならば、という前提なのだ。他の様々な機械類も、余り小型化されておらず、大きくて古めかしい。
しかしながら、この作品の全体としては、決して古臭い印象はなく、実に近未来的で、しかも前作の世界観(特に街並みの雰囲気において)をよく生かしている画面になっていると思う。そのバランス感覚が、実に絶妙だ。

さてさて、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、映像特典のお終いに、「この作品を、詩のように自由に感じ取って下さい」とコメントしていた。そのお言葉に甘えてw、僕の思うままを更に記してみたいと思う。

ここからは、ちょっとネタバレになるかも知れないので、『ブレードランナー2049 』を未見の方は、どうぞご注意の程を…。

僕は、この『ブレードランナー2049 』を一見して、これは聖書の物語の翻案が内包されているな…と感じた。僕にとっては、実に嬉しいことである。僕は、書物としての「聖書」というものが長年好きで、ライフワークの様にして親しんでいるつもりだからだ。
欧米の映画を観ていると、時折、嗚呼このエピソードは新約聖書のアレがベースになっているなとか、この登場人物は旧約聖書のアノ人を擬えたものだなとか感じることがある。

キリスト教そのものの、現代社会における影響力はさておき、やはり長年(千数百年も)君臨してきた宗教なので、今でも色々な文化の中に深く根を張っているのである。
そういった点で、僕が『ブレードランナー2049 』を観てまず感じたのは、このストーリーには、キリストを擬えた人物が登場しているということだ。しかも、ひとりではない。ふたりである。

それは、誰か?まず、ひとり目は、前作のタイレル社からレプリカント(人造人間)の開発製造を引き継いだ、ウォレス社というメーカーの社長である。これは、誰がどう見ても、一般的なイエス・キリストのイメージを踏襲した外見だろうと思う。

上は、Blu-rayのパッケージ裏面の写真。中央左の、上を向いている男性キャラクターが、ウォレス社の社長であるウォレス氏。頰のこけた面長でヒゲ面。髪は引っ詰めのオールバック。これは、正にキリストのイメージそのものだ。(トップの写真に載せた、パッケージおもて面にも写っている)
このウォレス氏、内面に万能感を充満させた人物で、凡ゆる生殺与奪の権は自分の手中にある、と考えている。つまり、神になったつもりなのだ。そのせいか、自分の秘書であるレプリカントを天使と呼んでいる。

加えて、次回に触れようと思うけれども、このウォレス氏が旧約聖書の「創世記」の一節を語るシーンもある。実際に、イエス・キリストも、旧約聖書の「詩編」などを誦んじたりしたものだった。この点も、実によく似ていると思う。
上に、この作品でキリストを擬えたのはふたり、と書いたけれども、ウォレス氏は謂わば、そのふたりの内の、「黒」の側のキリストである。(新約聖書のキリストには黒や白の色付けはされていない。あくまでも、この映画の中での話である。)

まあ、他で例えるならば、魔術で言うところの、黒魔術の側の様なものだ。では、反対の「白」の側のキリストは、誰か?…とここまで書いて、そろそろ紙幅が尽きてきたw 続きは、次回にでもまた…。(次回に、つづく)

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Blu-rayを見終わってから、下の様なムックが出ていたのだということに気付いた。早速、ネットでポチっておきました。この映画については、べらぼーに値段の高い公式本も出版されているけれども、そちらの方はちょっと手が届きません…。僕は、お安いこちらで我慢しておきますw

『別冊映画秘宝ブレードランナー究極読本&近未来SF映画の世界』
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