医学的な真実と患者さんの感覚との距離

 色んな状況があるのだが、クリニックの診察室以外の場所で、私が医者だとわかると質問を受けることがある。そんな時、医者の義務としていい加減な事は言えず、返答しないか、正しい真実を告げるかいずれかを選択することになる。正しい答えを言う自信がある時は、その事実を淡々と述べる事になるのだが、真実はしばしば質問者の思いとはかけ離れた、若干冷たい感じの言葉であることが多い。

例えば、『緑内障と言われた事があるけれど、今は特に症状もないし大丈夫ですよね・・・・』と言われたら。

  1. 多分大丈夫
  2. 大丈夫かもしれないけど、一度早めに眼科に行きましょう
  3. 緑内障は基本的に自覚症状はありません。自覚症状が出た時は、神経線維の多くは失われている状態で、それから治療しても、視野欠損による不自由な生活を余儀なくされる事があります。必ず眼科を受診して、確定診断を受けて診断に間違いないなら、すぐ治療を開始してください。

答えとして、この3パターンが思い浮かぶ。1ということもあるのだろう。現実問題としては、多分大丈夫なケースの方が多いと思うが、これは流石に言えない。で、2の答えぐらいにとどめておけばいいのかもしれないのだが、この教科書的な言い方が嫌で、3を言ってしまう事が殆どの気がする。もし、目の前の質問者が緑内障に間違いないのに眼科へ行かず、治療が手遅れになったしまったら大変だと思うからなのだが、この答えは冷たい感じがするらしい。最近ちょっと悩んでいる。質問者は、安心を求めているので、返答2がベストなのだろうが、どうもそのまま受診しない確率が高い気がする。返答3は、ちょっと冷たい答えだが、眼科へ行こうという動機づけにならないだろうか・・・

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