闘病記10 見えない敵
実のところ一番深いダメージは、投薬が続くうちに訪れる赤血球、白血球、血小板の減少だ。
赤血球が低下してくるとヘモグロビン濃度が薄くなってくるわけで、少し動いただけで息切れがひどくなってくる。階段の昇り降りもままならない。
白血球の低下は感染症リスクを招くので手洗い、うがいの励行が不可欠であることは言うまでもないが、基準値を下回ると個室に移され、部屋から出ることを禁じられる。
血小板が低下するとちょっとぶつけただけで出血が止まらなくなり、頭を打ったりすると脳内出血が止まらないことになり、これもまた部屋からの禁足令の理由である。
投薬後は毎日血液検査を行い、これらの数値を観察していくことになるが、投薬が数クールにも渡り身体に抗がん剤が蓄積されていくと造血機能にもダメージがあり、なかなかデーターが上がらなくなる。
回復しなければ上記のリスクが消えず、また次のクールの投薬が延期されてしまう。
基本的には自然回復を待つのだが、化学療法を重ねた身ではそれさえもままならず輸血を繰り返すことになるので肝炎などの感染リスクが怖かった。
なにより血液データが低下している間は部屋から出ることさえ制限される。各種データが反転することをいつも心待ちにしていた。