闘病記11 ひかりのくに

血液関連のデータが正常に戻ると、次のクールの投薬までしばらく間があくことになる。

初めての投薬を終えた後の初外出のことは今でもよく覚えている。

病室は無味乾燥な色のない世界で、大部屋であれば窓側のベッドでもなければ太陽の光さえ限られる。

まさに色のない世界。

初めて外出を許可されたときは本当に嬉しかった。投薬が始まる前の「抗がん剤」という諸刃の刃に対する期待と恐怖に緊張し続けた数週間のあとだけに、一刻も早く「シャバの空気」が吸いたかった。

病院近くの喫茶店に入り、窓際に腰掛けコーヒーを頼む。

窓の外には降り注ぐ陽の光、街行く人のカラフルな装い、店内のBGM、周囲の人の会話など、全てあの病室にはなかった日常の世界があった。

それらを見聴きしながらも不思議と「なぜ自分だけがこんな目に合うの?」という恨みつらみは湧き上がってこなかった。

 

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