露西亞が決してウクライナ侵攻で負けない(欧米が負ける)理由3 非米多極型覇権の筆頭は支那、米国の支配下の中東でサウジとイランの対立を解消し驚異の外交業績実現

支那の仲裁でサウジとイランが和解した。サウジとイランは2016年から対立し続け、両国の首都にある互いの大使館も閉鎖されていたが、今回は対立を解消して相互の大使館を2か月以内に再開し、安全保障や貿易投資などの分野の協力も再開することを決め、両国の代表が北京で合意文に調印した。米国の支配下にあった中東で、支那がこれだけ大きな外交業績を挙げたのは画期的だ。Iran and Saudi Arabia to renew ties after seven-year rift

サウジとイランと支那は昨年末から和解交渉を重ねていたが、交渉では英語を全く使わず、アラビア語とペルシャ語と支那語で、通訳を介して話し合うようにした。これは、英語を共通語としてきた既存の米英覇権下の外交体制からすると異質だし画期的だ。非米・多極型の世界体制の立ち上がり、英米覇権終焉への道を象徴している(必死で英会話をやりたがり、米英帰りを崇拝する日本人は時代遅れの間抜けになる)。英語を使わないことにより、米英が交渉の中身を傍受して妨害策をとることを難しくしたともいえる。

昨年12月に習近平がサウジを初訪問し、今年2月にはイランのライシ大統領が支那を初訪問するなど、支那がサウジとイランの両方と関係を強化している感じが最近あったが、米国側のマスコミは「中東は米国の支配が強いので、支那がやれるのは経済部門だけだ。外交安保の分野で大したことができるはずがない」と支那をけなしていた。サウジは2018年ぐらいからイランと和解したかったが、中東の分断支配とイラン敵視を続ける米国に阻止されてきた。今回、支那が和解の仲裁に成功したことで、サウジや、サウジを盟主とするアラブ諸国は、米国より支那(+露西亞)を頼る傾向になった。支那が中東の覇権を急拡大し、米国覇権の終わりが近づいている。米政界は、このタイミングで支那敵視を強めている。自滅的というか隠れ多極主義的である。

サウジでは2015年に権力を握ったムハンマド・ビン・サルマーン・アール=サウード皇太子(以下長いのでMbS)が、米諜報界から故意に間違った入れ知恵をされてイラン敵視を強め、サウジの人口の15%を占めるシーア派への弾圧を強めたので、イランとの国交が断絶した。またMbSは米国にそそのかされてイランの影響が強いイエメンとの戦争も開始したが、戦争は泥沼化して長期化した。MbSは失敗を認めざるを得なくなり、イエメンでサウジと戦うフーシ派の背後にいるイランと和解して戦争を終わりにしたいと2018年ごろから思うようになった。だが、米国はイランを敵視し続けており、サウジがイランと和解することに反対し続けた。トランプ米大統領はMbSに、イランでなくイスラエルと和解しろと勧めた。MbSは、サウジが盟主であるアラブ諸国の中でイランとも親しいオマーンやイラクに仲裁を頼んでイランと和解しようとしたが、それも米諜報界に邪魔され続けた。MbSは、昨年末にサウジを訪問した習近平にイランとの和解の仲裁を頼み、今回の和解実現につながったと考えられる。

少し前なら、サウジがイランとの和解の仲裁を支那に頼んでも断られていたはずだ。数年前まで、支那は経済的に米国に強く依存していた。製造業の技術の多くと、資本の多くが米国から来ていたし、作った製品の最大の市場も米国だった。決済通貨は世界的にドルだったし、世界の石油ガス利権も米国勢が握っていた。支那共産党の上層部も親米派が多かった。だが、それらの状況はこの数年で劇的に崩れた。トランプ以来、米国は支那との経済関係を断絶する姿勢を強め、支那は米国依存をやめざるを得なくなった。支那は成長し、資本や技術や消費市場を米欧に頼らなくても支那国内で調達できるようになった。コロナ危機は、都市閉鎖の超愚策によって欧米市場を大幅に縮小させた。

昨春のウクライナ開戦後、米欧が、露西亞や親露諸国から石油ガスを買わなくなる自滅策をやり出した。支那は露西亞と結束し、OPECの盟主であるサウジを仲間に取り込み、石油ガスの大産出国であるイランも入れて非米側として結束した。非米側が、米国側が対露制裁と称して売ってくる喧嘩を支露主導の非米側が積極的に買っていくと、米国側は自滅が加速して覇権崩壊し、世界は支露主導の非米・多極型の覇権に転換していく。米英が覇権維持のために中東など世界各地で誘発していた戦争は沈静化し、非米諸国は戦後初めてちゃんと安定し、旺盛に経済発展していける。支那にとって、世界を良くしつつ自国を繁栄させられる好機が来た。

支那共産党の上層部は習近平になるまで、トウ小平以来の親米派(経済面の対米従属派)が握っていたので、習近平はまず自分の独裁を強化して党内の親米派を無力化する必要があった。そうしないと、習近平が世界を非米化しようとしても党内の親米派に邪魔される。それで習近平は、まず昨年秋の党大会で自分の独裁体制を確立した。その直後にサウジを訪問し、サウジが希望するイランとの和解を支那が仲裁することを決め、サウジとその傘下のアラブ産油諸国が産出する石油ガスをすべて支那側(支那と一帯一路の諸国)が買い占め、欧米側に売らなくて良いようにする話もした。サウジ側から支那側への石油ガス販売はドルでなく人民元などで行い、米覇権の根幹に位置していた石油のドル決済体制(ペトロダラー体制)を破壊する策も決めた。

サウジが抱える問題の根幹は、イランとの対立でなく、安全保障を米国に依存していることだった。米国に妨害されても、安保的に対米従属でなかったら、サウジは米国の妨害を乗り越えてイランと和解できたはずだ。国家にとって一番大事な安保面で対米従属だから、サウジは米国に反対・妨害されるとイランと和解できなかった。サウジは安保つまり諜報の面で米国依存なため、米国からウソの諜報を入れられ、信じ込まされたMbSが2015年に自滅的で間抜けなイエメン戦争に突入した。もっと前には、サウジが諜報的に対米依存だったため、米諜報界がサウジのイスラム原理主義者たちを操ってアルカイダのテロ組織を動かしたり、よく見ると米当局の自作自演である911テロ事件を起こしたりした。

米国とその傘下の欧日で世界経済の大半を持っていた時代は、サウジの対米従属が石油収入という巨額な見返りをもたらしており、良い国家戦略だった。だがいまや米欧日の経済は衰退しており、世界の経済発展の中心は支露BRICSなど非米側に移りつつある。対米従属をやめて非米側に転じ、支那など非米諸国に石油を売るのがサウジの最善策になっている。支露にとっても、サウジが非米側に転入してくる方が、非米側のエネルギー体制を強化できるし、米国側を石油不足に陥れて覇権転換を早められるので好都合だ。サウジが対米従属である限り、米諜報界がサウジ政府の機密文書を盗み見できてしまうので、サウジをBRICSなど非米側の戦略会議に入れることもできない。サウジを安保的に対米自立させることが、支露にとって必要だった。

サウジを安保的に対米自立させる早道は、サウジと周辺諸国との対立や緊張関係を全部解決してしまうことだ。周辺との対立がなくなれば、サウジは米国の兵器を配備する必要がなくなり、米国の諜報に頼る必要も低下する。そして、イエメン戦争やカタールとの対立、国内シーア派の反政府運動など、サウジと周辺との対立のほとんどは、イランと和解することにより解消できる。ISISやアルカイダなどイスラム主義のテロ勢力もサウジの内部的な脅威者たちだが、これらは米諜報界の支援がないとしぼんでいく。サウジとその子分であるアラブ諸国が対米従属をやめると、米諜報界や米軍がアラブ諸国に駐留してISカイダを支援する構図も消失し、ISカイダはしぼむ。イスラエルも以前はサウジにとって脅威だったが、トランプがイスラエルとサウジの仲を仲裁して以来、イスラエルはサウジの敵でなくなっている。イランと和解すれば、サウジは対米自立しても自国の安全を維持できる。

サウジがイランと和解すると、サウジは自滅的なイエメン戦争をやめられ、これから発展する非米側に石油を売って繁栄し続けられ、ペルシャ湾岸地域全体の緊張が緩和され、サウジが率いているアラブ諸国も引っ張られて対米自立していくので、戦争を扇動していた米諜報界は中東全体から追い出され、米諜報界に支援されて殺戮をやってきたISカイダのテロ組織もしぼみ、中東が平和と安定、経済発展がもたらされて人々が幸せになり、支那企業は新たな市場を得て儲けられる。イスラエルは取り残されるが、イスラエルだけでイランとアラブの両方と戦争するわけにいかないので、サウジそしてイランとも和解していかざるを得ない。アラブ諸国は近年イスラエルを敵視しておらず、イスラエルが潰されて終わるシナリオはもうない。

このように、サウジがイランと和解して非米側に転じることは、サウジとイランだけでなく中東全域と、支那と露西亞の全員にとって利益になる。だから習近平は、昨年10月末の共産党大会で支那での権力を確立した後、急いでサウジとイランの和解を仲裁し始め、12月にサウジを訪問し、今年2月にイランのライシ大統領が訪中し、3月に入って双方の安保担当者が北京で数日かけて最後の調整をした後、和解の調印を実現した。今後は、支那がアラブ諸国の全体とイランとの和解を仲裁していく方針で、今年中にアラブ諸国とイランの首脳が北京に集まって史上初のサミットを開く予定になっている。支那は、米国に替わる中東の覇権国になっていく。

支那は、露西亞と連携してこの戦略を進めている。支那はイランとサウジの和解を担当し、露西亞はシリアと周辺諸国の和解を担当している。3月14日、シリアのアサド大統領がモスクを訪問し、今後のことをプーチンと話し合った。シリアには最近、エジプトなどアラブ各国から外相らが次々と訪れている。サウジが盟主のアラブ諸国で構成するアラブ連盟は一昨年あたりからアサド政権のシリア政府を連盟に再招待したいと考えてきたが、アラブは対米従属なので、米国の反対を受けて延期してきた。それが今回のサウジとイランの和解、サウジの対米自立により、アラブ諸国の全体が対米従属から解放される流れになり、いよいよアラブ連盟がアサドのシリアを再招待できる状態になっている。

今後サウジなどアラブ諸国がアサドを再招待してシリア内戦の終わりを宣言し、それを露西亞が歓迎する。シリア内戦でアサドが勝ち組になると、トルコは負け組になる。トルコはアサドと戦争してきたが、アサドを擁護してきた露西亞とは仲が良い。だから露西亞は、シリアとトルコの和解を仲裁し始めている。シリア内戦では、露西亞が空軍で、イランが地上軍でアサドの政府軍を支援してきたので、イランも勝ち組だ。従来の米覇権下の中東では、イランはアラブの敵だ。だが今やアラブは支那の仲裁でイランと和解していく。その流れをくんで、露西亞はイランと、シリアを再招待するアラブとの間を仲裁しようとしている。イランは、影響圏であるペルシャ湾とシリアの両方で、支露の仲裁を受け、アラブと和解していく。

シリアにはまだ数百人の米軍が駐留している。アラブ諸国はアサドと仲直りした後、米国に対し、米軍をシリアから撤退してくれと頼むことになる。米軍はシリアに駐留し、アサドの敵であるISカイダのテロ組織と、クルド人の軍勢を支援してきた。米軍撤退と米覇権の消失により、ISカイダはしぼんでいく。クルド人も米イスラエルの傀儡だったが、彼らは枯れすすき的なISカイダと違って大昔から地元に住んできた人々なのでいなくなれない。クルド人はシリア、トルコ、イラク、イランの各政府に監視されつつ分割状態のまま生きていくことになる。

中東ではイラクにも2000人ほどの米軍が駐留している。イラクの米軍も、ISカイダの支援とイラン抑止が目的だ。かつてオバマがイラク米軍を撤退しようとしたところ、米諜報界がISISを作ってイラク東部を戦争に陥れて妨害した。イラクとイランの政府は米軍を撤退させたいが、撤退しろと加圧すると米軍はISをテコ入れして戦争を再燃させるので手が出せず、米軍駐留を容認してきた(建前上はイラク政府が米国に派兵を要請したことになっている)。だがこれも、今後の中東での米覇権低下とともに撤兵に向かっていく。今月はイラク侵攻から20周年だ。20年たって、ようやくイラク戦争が終わリそうな事態になっている。

最後に残る最重要な問題はイスラエルだ。しかしこれも、プーチンが手柄にできる良い手がある。イスラエルは1960-70年代の中東戦争でシリアからゴラン高原を奪い、現在まで占領してきた。イスラエル政府はかつてゴラン高原をシリア(アサドの父親)に返還してシリアとの関係を劇的に改善し、イスラエルが抱える周辺諸国との緊張関係の北半分を解決しようとした(シリアと和解すれば、影響下ににあるレバノンとも和解できる)。だが、その交渉を秘密裏に続けている間にアサドの父が2000年に急死したので和解策は頓挫した。

頓挫したものの、イスラエルは今もゴラン高原を返還可能な状態にしている。聖地が点在するヨルダン川西岸は誰にも渡せないが、ゴラン高原は好条件なら手放しても良いとイスラエル諜報界は思っている。今後、米国が中東から出ていき、イスラエルは唯一の後ろ盾を失う。アサドは勝ち、支露の傘下でシリアが安定し、イランの勢力がシリアを闊歩して国境沿いのイスラエルの近くまでやってくる。アラブもイランの味方になる。これまでのようにイスラエルがイランを敵視し、アラブを恫喝し続けていると国家滅亡になる。イスラエルはもう戦争できない。世界で最も優秀なユダヤ人の交渉力を発揮し、戦争でなく外交で、中東のすべての主要勢力と和解していかないと、イスラエル国家を存続できない。プーチンはイスラエルの窮地を知っており「協力しますよ」と言いながら含み笑いしている。キーワードはゴラン高原の返還だ。

これからアラブ連盟に再招待されて国際社会に復帰するアサドのシリアは、以前から求めていたゴラン高原の返還をイスラエルに再要求する。露西亞の仲裁で非公式にイスラエルとシリアが交渉し、ゴラン高原の返還を決める。返還の見返りに、シリアだけでなく、中東のイスラム側の諸国のすべてがイスラエルと和解するか、最低でも敵視をやめる枠組みが、露西亞の仲裁で作られる。イスラエルはアラブ諸国と協力してパレスチナ問題の解決につとめると約束するが、同時にアラブやイスラム側は、以前のような「(今のイスラエル全土を含む)完全なパレスチナ国家の設立」を求めることはしない。1967年の停戦ライン(グリーンライン)をそのまま国境線にする「完全な2国式」も要求しない。イスラエルの現状を受け入れた、トランプやオルメルトの解決案に近いものを具現化していく。その線なら、イスラエルは入植地をあまり撤去しなくてすむ。これでパレスチナ問題を解決したことにする。

完全な2国式に比べ、パレスチナ人は大幅に譲歩させられる。国際左翼など活動家たちは不満だ。だが、これによって中東は大きく安定し、イスラエル国家を滅亡させる戦争も回避される。米国が中東から撤退し、戦争はもう起こらない。クリントンが実現できなかった「平和の配当」が、30年後にようやく配られる。こうした展開が具現化するのかどうかわからない。だが、このぐらいしかうまくいく道筋はない。イスラエルにとって今いちばん頼りになるのはプーチンだ。露西亞は最近、パレスチナのハマスの代表をモスクワに招待し、ラブロフ外相が会談した。そして、露西亞の影響力拡大と同期するかのように、米国はイスラエルとの協力関係を解消している。

支露が世界を動かし始めている。いろんな話がどんどん進んでいる。習近平が、早ければ来週モスクワを訪問するとロイターが報じた。中東の今後をプーチンと話し合うのかもしれないが、それだけではない。習近平は、露西亞とウクライナの和平を仲裁すると言っている。ゼレンスキーは、習近平と話したいと言っている。中共は、早ければ今夏にはウクライナ戦争を終わらせられるとも言っている。そうなのか??。絵空事と思って無視していると、隠れ多極主義者が習近平の手柄にするために動いていたりする。

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