以前、こんなことを書き散らした。期せずして魔太郎は魔王と化し、将棋界の最強者として甦った。自慢ではないが渡辺明を魔王と言い始めたのは(Twitterを馬鹿発見器と呼んだのと同様に)私ではないかと思っている。異論のある方、わざわざ教えてくれなくてよいよ、このブログにはコメント欄はない。
今度は豊島将之の番だ。公式戦5連敗は前回いつの頃かもうわからない。
永瀬叡王にはすっかり調子を狂わされていたようだが、本局も優勢を築きながら渡辺明の巧妙な勝負手に屈したように見える。断言できないのはAI解析の補助を借りた結果を外野席から観覧している者の勝手な憶測に過ぎず、最高峰の場で戦っているこの二人以外には誰も立ち入ることのできない領域のことを偉そうに言えた口など持たないからである。
問題の局面である。劣勢の渡辺明がやけくそにも見える▲3三金で王手飛車取りをかけたところである。これに対する応手は2つしかない。△5二玉は飛車がとられた局面がまた王手になり指しにくい。△5三玉のほうが桂で上部から攻め込まれるがマシに思える。ところがこれが大きな分かれ目。右上のAbemaAIによると
△5三玉 -62%
この局面で77%vs23%だから△5三玉だと15%vs85%で大逆転なのである。しかるに長考後の豊島名人の手は私でも指しそうな△5三玉のほうだった。本局の見どころはここまで。この後、渡辺明が指し手を誤るはずもなく、名人戦は2勝2敗の五分に持ち込まれた。
劣勢にありながら極端な評価値分岐に持ち込める盤面制御力と驚愕すべき念力を発揮した渡辺明の強さ、それに比較して、たとえここで△5二玉を選択したとしても、どこか先で悪手を指してしまうのではないかと思わせる豊島名人の力弱さ、その両方を感じざるを得なかった。
改めての3番勝負、勝負はまだまだこれからである。が、この将棋、持ち時間も常に相手より大量消費してしまい、ついぞ勝ちきる情景を想像することが出来なかった豊島名人に最大限のエールを送りたい。まだタイトル防衛していないのは輝かしい棋歴の中の大きな瑕疵である。