第78期名人戦七番勝負第3局2日目 一直線に勝負を決めず、混沌の末の地雷だらけの局面で尚且つ最善手を放つ凄みを発揮し、豊島将之名人連勝

渡辺明の形勢を損ねてもあちらこちらに地雷をばらまき、一歩間違えたら許さないぞ、という局面を創造する能力は、かつての米長邦雄九段の泥沼流に似ているのではないか。それとて、一気に勝ちにいかず(いけず)形勢を相手に傾ける寸前の互角にまで戻す緩手を放てる豊島将之名人の名人芸があってこそだろうと思う。本局は所謂名局と呼べるものではないが、観ていてこんなにハラハラする将棋は観る将にとって至福の時間を与えてくれる。

二日目に豊島将之名人が指した▲8一銀は何じゃこりゃな一手、どちらかというと私のような弱い者が指す手のようで、これで形勢が混とんとしてきたように思う。それが最終盤になって敵陣に乗り込んだ豊島玉を守る形になったのが実に面白い。

そして残り4分で放った▲2三歩、これ以外は真っ逆さまに負けにつながる局面で、この手が指せるところに地味ではあるが豊島将之名人の真骨頂をみた気がする。それもこれもソフトの評価値を目にしながらの新しい将棋の楽しみ方の一つだ。

豊島将棋を鈍足の寄せと揶揄する人もいる。谷川浩司や藤井聡太のように恐ろしいほどの終盤の強さを発揮する棋士たちに比べれば仕方のないところだが、相手とて人間、間違えやすく勝ちにくい局面を導く一手を指したり、そんな局面においても最善手を選択できる能力を現在のトップ棋士は持っていると思う。

終盤の切れ味のみで勝ってきた棋士たちが勝てなくなった現在は、展開が複雑化しすぎてて評価値うんぬんより紛れない手順を選ぶ方が勝ちやすい。豊島名人や渡辺三冠などはそのスタイルを選んでるってことなのだろう。私たち凡人は脳のスタミナがそれほどではないので、早く楽をしたくて一気に詰ませようとするところなのだが。

いずれにしても、このような過密日程の中、白星を重ねる豊島名人の防衛がかなり明白にみえてきた。

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