最近、「日本語を教えてみたい」という方が身辺におられた。将来の展望のひとつとして、外国人向けの日本語教育をお考えになっておられるようなのだ。
そこで僕は、2011年に6ヶ月間の日本語教師養成講座(規定の420時間)を修了し、その後の日本語教育能力検定試験という資格試験にも合格しているので、その方にお見せするべく、その当時に使った様々なものを10年以上ぶりに掘り返したのである。
トップの写真は、その講座内で用いた書籍の一部だ。「新・はじめての日本語教育」というのは、我々の謂わば教科書で、日本語について言語学的に分析したり、日本語教師として身につけておくべき教授法や知っておくべき関連規則などについて書かれている。
その下に写っている「みんなの日本語」は、外国人向けに作られた日本語学習の教科書である。これは、直接法と呼ばれる、日本語で日本語を教えるという方法に則っているので、全体的に平易な日本語で記されている。その隣は、教師用の指導書だ。
あと、検定試験に向けて、僕は上の本以外に主に下の3冊を使って勉強した。赤い表紙の一冊は、「日本語教育の赤本」と呼ばれる程に定番の書籍で、この検定試験の受験生ならば必携である。そうでなくとも、日本語教育について実によく纏められていると思う。
さて、日本語教育能力検定試験だけれども、当時は合格率が2割前後と言われていたのである。多分、今でもそうだと思う。この数字だけ見ると、そんなに難しい試験ではないように思われるかも知れない。例えば、英検で言えば、2級が同じくらいの合格率なのである。
しかし、僕が通った6ヶ月間の講座には23名程の受講生がいたのだけれども、この講座を終えて皆んなで受験に行き、合格できたのは僕も含めて、たったの4名であった。半年間みっちりと専門教育を受けても、受かるのは約6人にひとりなのだ。
しかも、この試験は時間が長い。筆記とリスニングが問題冊子3冊に分かれ、全240分、つまり4時間もかけて解くのである。下は、僕が受験したときの問題冊子だ。確か、合間の休み時間には皆んなで広場に集まって、話をしながら軽く飲み食いをした思い出がある。
さてさて、出題された問題をちょっと見てみよう。問題ページの写真をそのまま載せるのは躊躇われるのでw、必要な箇所だけ僕が手打ちしてご紹介したいと思う。加えて、あまりたくさんの例を挙げると冗長になるため、以下ふたつだけピックアップした。
例えば、問題冊子3の5ページ目、「問題1」の問4には、「世界の言語には、形容詞という明確な品詞を持たない言語もある」云々という文章に関する問いに対して、次のような解答選択肢がある。ちなみに、下の中から「不適当なもの」をひとつ選ぶ問題である。
1 タイ語では、形容詞が名詞を修飾するときには「名詞+形容詞」の語順になる。
2 韓国語では、形容詞の活用が一部を除いてはほぼ動詞と同じである。
3 中国語では、形容詞が統語的な位置によって動詞になる場合がある。
4 英語では、形容詞が名詞と同様にbe動詞を伴って述語となる。
このように、日本語教師になるための試験問題といえども、日本語以外の事柄についても次々と出題される。純粋に日本語だけに関する内容の試験というよりも、謂わば言語学の総合問題といった様相を呈しているのだ。ちなみに、1問につき1分ほどで解く必要がある。
更に、問題冊子3のラスト、つまりこの検定試験の最終問題は日本語の作文だ。日本語教育に関して与えられたひとつのトピックに対し、400字程度(実際には400〜500字以内くらい)で論述するのである。僕のときには、下のようなお題が出題された。
問題17 あなたは、短期留学生対象の日本語クラスで会話の授業(学習者は5名程度)を担当することになった。対象となる学習者は、会話をする際に、文法や語句選択の間違いはよくするが、すでに日常生活では困らない程度の口頭能力を持っている。授業を始めるにあたり、学習者たちに希望を聞いたところ、いずれの学習者も「正しい日本語を身に付けたいので、間違ったところはすべて直してほしい」と答えた。あなたは、この教室活動の中で、間違いの指摘及び訂正をどのように扱おうと考えるか、理由となる考えとともに、400字程度で記述せよ。
さて、これをお読みになって、どのようにお考えになるだろうか。この作文問題は15分程度で解答を完成させれば良いだろうと思う。僕は、問題ページの余白に一旦下書きして字数を数え、推敲してから解答用紙に書いた。下の文は、その下書きを復元したもの。
この学習者たちは、間違いは多いが日常生活では困らない程度とのことなので、ローカルエラーが多いと考えられる。それらは、通じれば良いという観点では見過ごすことの出来るレベルの間違いであろうが、学習者たちには正しい日本語を身に付けたいという意欲の表明があるので、このクラスの担当者としては、それに応えてあげたいと思う。
その一方で、教師からの間違いの指摘や訂正があまり多いと、学習者の情意に差し障るということもあろう。故に、ただ片端から間違いを直していけば良いというものでもない。
また、この学習者たちは短期留学生なので、日本で生活する期間が限られている。日本語を使用する場面として、(長期間に渡る)ビジネスシーンなどは考えにくく、発話する相手も教授や日本人のクラスメイトなど、ある程度限られたものとなろう。
以上のような観点をふまえ、このクラスの担当者としては、学習者の会話上の間違いを教授など目上の人物に対して失礼とならないように、また日本人の友人たちと親しみを込めた円滑なコミュニケーションを取れるようにということに配慮しながら指摘し訂正していきたい。
[上記解答のカッコ内は、復元時に補足した部分]
僕は、事前の学習で過去問をやっているときから、特にこの作文問題には手応えを感じていた。そして実際の試験では、問題冊子3はここから始めて解いていった記憶がある。そういった甲斐があったためかどうか、無事に一発合格できたのであった。
あと、おまけとして、日本語教師養成講座の模擬授業の中で使ったものをご披露したい。板書の際に黒板に貼るための自作の教材である(裏面にマグネットが付いている)。あと、模擬授業のために自分で作成した台本も、ちょっとだけ写っている。
上のようなイラスト教材などを家で夜なべして無数のようにたくさん作った。僕は、この養成講座が楽しくて仕方がなかったので、こうした作業も嬉々としてやったものだw 講座を修了して彼此10年以上も経つけれども、今もこうして大切に保管してある。
それから、僕は修了制作としての教材作り(PCのパワーポイントで制作する)でも、謂わば最優秀の作品を残すことが出来た。そう、周囲をして「これは教材というよりも“作品”です!」とまで言わしめる超大作wを作ったのである。
これも是非ここでご披露いたしたく思うのだけれども、生憎とパワーポイントのファイル(サイズは300MB以上ある)をブログに貼ってお見せする術を僕は知らない…。それはもし機会があれば、改めて別の投稿でご紹介できれば、と思っている。
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もし日本語教育にご関心をお持ちでしたら、上に挙げた幾つかの書籍のうち、まずは上述の赤い表紙の本を手に取ってみると宜しいでしょう。これ一冊で日本語教育の概要がわかりますし、いずれは試験対策用としても役立ちます。下のリンクは、その最新版です。実際の試験内容は、本投稿に書いたような謂わば言語学的な問題だけでなく、教授法や関連制度および法規など、日本語教育にまつわるものは全ての範疇で出題されると言っても過言ではありません。そのために、入念な試験対策が必要です。昨今、日本語教師が国家資格化されるという話も出てきていますが、きっとその場合も試験内容それ自体は現在のものと似通ったものになることでしょうね…(これは、あくまでも私見ですが)。
『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第5版』
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