大学進学による上京と共に、MSX2+パソコンを購入し、その後、夏休みにアルバイトをしたお金で専用ディスプレイも買った。そして、謂わばゲーム三昧のような日々(?)を送っていたけれども、やはりPC-88のような高性能機の魅力は忘れ難かった、というのが前回までのお話。
僕は、以前PC-88の項で書いたように、やや低スペックでもホビーパソコンとして気軽な楽しさのあるマシン、というものにも惹かれていた。
例えば、その投稿でも触れた、PC-6601SRのような機種である。そんな気持ちもあって、上京時にはMSX2+を選んだのだろう、と思う。
確かに、ゲームマシンとして見た場合には、MSX2+はとても楽しいパソコンだった。特に、初代MSXの頃から、コナミがゲーム開発に力を入れていたので、ソフトのラインアップは、豊富だったように思う。
僕も実際に、『スペースマンボウ』というシューティングゲームと、『牌の魔術師』という麻雀ゲームを買ってよく遊んだものだ。特に、『牌の魔術師』は、対人で麻雀をするという機会が普段ない僕にとって、良い遊び相手だったw
これらコナミの、MSXシリーズ用ゲームソフトの特徴は、カセット内部にコナミ独自の音源を搭載していた、ということだ。SCC音源という。
(『スペースマンボウ』を紹介している動画。SCC音源のサウンドを聴くことができる。これ、とてもセンスのある動画編集をしていますw)
コナミは、MSXパソコンに元来内蔵している、PSG音源またはFM音源には頼らず、自前のSCC音源で音楽や効果音を鳴らしていたのである。麻雀ゲームでは、「ロン!」のようなキャラクターの声まで出していたw これらのサウンドは、コナミ一流のこだわりだったのだ。
翻って、MSX2+に内蔵のFM音源はどうであったかと言うと、実はPC-8801mkIISRが内蔵していたFM音源よりは、やや低グレードのものだったのである。実はこのことについては、SONYのHB-F1XDJを買うときに、僕は事前に承知していた。
FM音源には、大雑把位に言って、主に3つのグレードが存在するのだ。松竹梅の3コースであるw
松コースのFM音源は、80年代のYAMAHAを代表するシンセサイザー、DX7に搭載されていた。謂わば、プロ仕様のFM音源である。
竹コースは、PC-8801mkIISRなどのパソコンが内蔵していた、OPNと呼ばれているFM音源だ。
そして、梅コースは、MSX2+に内蔵されていたものだ。OPLLと呼ばれている。つまり、MSX2+は、3種類の中でいちばんお安いFM音源だったのである。
(YAMAHAのDX7、出典:Wikipedia)
僕は、MSX2+では、ゲームのソフト以外にも『シンセサウルス』という音楽ソフトを買って、このマシンの音楽的な可能性を追求してみた。
また、他には、高校生の頃から買っていた『マイコンBASICマガジン』を引き続き購読して、そこに掲載されていた音楽プログラムを入力してみたり、MSXに関する他の専門書(前回のトップに写真を載せた3冊)を参考に、あれこれとOPLLをいじってみたのである。
(『シンセサウルス』、出典:駿河屋)
しかし、どうやっても、OPLL独特の、チープな音質というものを克服することが出来なかったのである。いや、こんなことを書いて、MSXファンの方には、大変申し訳ないのだけれども…。
このことは、ゲーム会社のサウンドクリエイターの皆さんも、きっと悩んだことだろう、と思う。
下は、日本ファルコムの代表作のひとつ『ソーサリアン』というゲームの、FM音源つきMSX2版の音楽を収録した動画である。例えば、PC-88版などの『ソーサリアン』の音楽を聴き慣れた方にとっては、音質の違いというものがすぐお分りいただけるだろう、と思う。
OPLLの音色には、全体的に丸みがあって、FM音源特有のトンがった感じというものが、あまり無いのである。それがひとつの味といえば、まあそうなのかも知れない。でも、聴いてコーフンしてくる音色というものが、本当のFM音源の魅力だと、僕はそう考えていた。残念なことに、MSX2+のFM音源には、それが無かったように感じた…。
まあ、そんな訳で、2年ほどMSX2+を使って、僕は次のマシンを模索し始めたのである。やはり、パソコンは高スペックであることが何よりだ、と。そして、この当時、いちばんの高スペックマシンといえば、もうアレしかなかった。
SHARPのX68000という、16ビットパソコンである。
かねてから僕は、このマシンに関心を持っていた。いやいや、僕だけではなかっただろう。日本中のパソコンファンから、垂涎の的として一身に注目を集めていた機種だったのだ。僕は、このX68000を買うための算段を立て始めたのである…。(つづく)
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トップの写真は、以前もご紹介した、この本より。MSXに関しても、20ページ以上を割いて、当時のエピソードやソフトの発売リストを掲載しています。
佐々木潤著『レジェンド パソコンゲーム80年代記』
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