今日も雨である。こうして、週明けまで、このような天気なのだろう。
僕は、雨降りの天気がそれほど嫌いではない。ただ、仕事のために出かけるときや、家の外で自転車修理などの作業をするのが途端に億劫となってしまうのが、嫌なだけである。
母は、子供の頃、外で雨が降っているのを家の窓から眺めるのが好きだった、と言っていたことがある。
そんなちょっと変な子供だった、と言いたかったらしい。でも、僕も、子供のときから同様に雨降りを眺めるのが好きだったのである。
先日、朝の仕事を一緒にやっている人(50代くらいのオジさん)が、「雨音を聞いていると眠くなってくるんですよね…」と、何かの拍子に呟いていた。その日も、朝から外で雨が降っていたので、ふとそんなことを思いついて言ったのだろう。
その人は、こうも付け加えた。「あ、うちは、トタンの屋根なんですよ。雨が当たるときの、あのパラパラーっていう音が、どうも眠気を誘うんでね…」
それならば、僕にも心当たりがあった。殆ど山の中と言うべき場所に建っていた、父方の亡き祖父母の家が、トタン屋根だったからだ。子供の頃、休みの日などによく遊びに行ったものである。
その山中の町は、電車の窓から見渡すと、赤い屋根しか見えなかった。全部と言っても良いだろう。あらゆる家が、色褪せた赤色の、トタン屋根の家だったのだ。祖父母の家も、そうだったのである。
夜、しんと静まり返った中で床に入っていると、突然パラパラとした乾いた音が天井の向こうから響いて来ることがあった。横で寝ている祖父はそれを、「降ってきたな」と言う。雨である。
祖父は「お前のうちは瓦屋根だから、こんな音はせんだろ」とも。僕には、誰かが豆を床にばら撒いたような音にしか思えなかった。それを聞いて、いつの間にか寝入るのだ。
パラパラパラという、その雨の音には、一定のリズムなど何もなく、ただ不規則に繰り返されるのみである。そんな無為の営みに、眠気が誘われてしまうのだろうか?
そんなことを考えながら、僕は、作業場の外から聞こえる、シトシトというアスファルトに当たる雨音を聞きながら、懐かしく亡き祖父の姿を思い出していたのである…。
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YAMAHAが最近刊行を続けているムックに、『日本の音楽家を知る』というシリーズがある。以前の投稿でも、少し紹介したことがあったように思う。
僕は、それをひと通り、図書館で借りて目を通してみた。目下のラインアップは、武満徹、伊福部昭、服部良一、冨田勲の各氏だ。先日、冨田勲氏の号を読むことが出来た。このシリーズの中では、いちばん興味深く読んだと思う。
冨田勲氏の音楽は、僕は多分、高校生くらいのときから聴いていただろう。確か『シンセサイザーと宇宙』というタイトルの、岩波の小冊子のような本も買って読んだ。
国内外にシンセサイザーを使う音楽家は数あれども、冨田勲氏は、宇宙のイメージと特によく結びつきやすいだろう、と思う。星から発せられるパルスを利用してシンセサイザーの音色を作るなどの創作活動を行なっていたからだ。
また、冨田勲氏は、個人でシンセサイザーを購入して使い始めたという点でも、世界的な先駆者のひとりであったと言える。ちなみに、このムックには、「世界でふたりめだった」とある。
シンセサイザー一式を、米国から輸入する際、羽田の税関ではこれが楽器であると理解してもらえず、やりとりに苦労したというのは有名な話。僕も、このエピソードだけは知っていた。
ただ、疑問があった。シンセサイザーならば鍵盤が付いているだろうに、それでも楽器だと分かって貰えなかったのだろうか?と。
それは、このムックに掲載されている一枚の写真で氷解した。この当時のシンセサイザーには、鍵盤が付いていなかったのである!嗚呼、寡聞にして知りませんでした…。
確かに、鍵盤がない。その代わり手前に置いてあるのは、膨大な数のつまみが付いたコントロールパネルである。このシンセサイザーは、愛宕山のNHK放送博物館に展示されているのだという。よし、今度、見学に出掛けてみよう!
あと、このムックの中で、特に僕の印象に残ったのは、このくだりである。
日常で耳にしている音から遊離した、まったく聞いたことのない音は単に雑音としか聞こえず、その音からは共感も感動も得られない…
…「新しいユニークな音」とは、、今までに自分が聞き慣れた音からわずかに離れたところにあり、そこから離れるにしたがって雑音に近くなり、無機質な音になっていく。
なかなか、含蓄のある言葉だ。ユニークとは、少しだけ離れたところにある、というわけである。離れすぎてはいけない。そうなると、無機的な音、雑音になってしまう。いやあ、これは実に面白い。
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このシリーズの良いところは、それぞれの音楽家の、貴重な写真も見られることだろう。それに加えて、上に挙げたような様々なエピソードも読める。是非、続刊も期待したいところです…。
『日本の音楽家を知るシリーズ 冨田勲』
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