カナダ大使館で、グレン・グールドが愛好した映画、安部公房原作・脚本の『砂の女』を観たのだ…

先週の木曜日に僕が都内数カ所を周遊した投稿の、今回がひとまずの最後となるであろう。一回分のお出掛けで、随分と長く書くものであるw 我ながら、そう思う。でも、これが性分なのだ…。

今回は、前回と同じく、グレン・グールド・ギャザリング(GGG)という、グレン・グールドを記念したイベントの企画で上映された映画、『砂の女』を観に行ったことについてである。
会場は、カナダ大使館の「オスカー・ピーターソン・シアター」という映画室だ。大使館…といえば、このブログでずっと以前になるけれども、某国の大使館に行ったときの出来事について書いたことがあった。

その某国大使館では、実に良いものを見せて貰ったのだけれども、我々観客に対する扱いというか…まあ、このくらいにしておこう。とにかく、僕にとって、大使館といえば、ある種の緊張感が伴うものなのである。
今回行くのは、上に書いたように、カナダ大使館だ。僕にとっては、初めての場所である。ちょっと思い出したのは、外資系のIT企業に勤務している僕の弟が、だいぶ前にカナダ大使館に機材の納入とセッティングに出向いたことがあるということだ。

そんなことをつらつらと考えながら、僕は草月会館から歩いて数分のカナダ大使館へ向かった。下の写真は、大使館の塀である。150という数字が見えるのは、カナダ建国150周年という意味なのだそうだ。

鉄筋コンクリートの、3階建だろうか、4階建だろうか、フラットに見えて奥行きのある建物だった。1階の正面がガラス張りになっていて、中がショールームのようになっている。でも、僕の行くべき入口は、これではないような気がしたのである。
案の定、その建物の脇の辺りに、細く長いエスカレーターが上へと伸びていて、手前には頑丈そうな柵が設けてある。柵の前には警備員がふたり立っていた。きっと、こちらの入口だ。

僕は、この警備員に近寄って、「オスカー・ピーターソン・シアターに、映画を観に来ました」と述べた。すると、警備員のひとりが「ああ、映画ですね。では、お名前と身分証明書を」と言った。この映画の観覧は事前登録制だ。
勿論、僕はそれを承知していたので、その数日前にネット上で氏名を登録しておいた。名を述べて、免許証を見せる。あとは、手荷物検査だと言うので、カメラのバッグから中身を取り出して、もうひとりに見せた。元通りに荷物を押し込むのが、ちょっと大変だったけれどもw

無事、その入口を通過して、ひとりずつが丁度立てるくらいの幅の、銀色で長いエスカレーターに乗った。下の写真は、帰りに撮ったもの。だから、上から下へのアングルになっている。
僕の弟は、この細い急勾配のエスカレーターで、ダンボール数箱分の機材をせっせと運んだのだ。確か、そう言っていた。運ぶのが大変だったんだよ、とも。

このエスカレーターを上ると、地上からはフラットな屋根のようにしか見えなかった上層階が、この大使館のエントランスロビーになっていたことに気づく。下の写真も、帰りの際に撮っていったもの。だから、向こうが薄暗い。

上の写真のような石庭があったり。あと、ここには写っていないけれども、クリスマスツリーも飾ってあった。また、このフロアからの、夜の眺めが素晴らしいのである。その写真は、後ほど…。

上は、外から写したロビーの写真。国旗や各要人の肖像写真などが掲げてあった。その筆頭は、英国女王陛下であった。

そして、目当てのオスカー・ピーターソン・シアターは、この上階から何と、エレベーターで地下2階まで下がるのである。流石、大使館だ。何という不思議な構造であろう。まるで、戦国時代の城郭のようだ、と思いつつ乗り込んだ。
地下2階のロビーは、総石造りの天井が高い、何ともひんやりとするような空間だった。ただし、暖房が効いていたので、それほど寒くは感じなかったけれども。

開場時間より早く着いてしまったので、シアターはまだ閉まっていた。しかも、まだ誰も先に来ていないようである。係員の姿も見えない。僕は、このがらんとした空間で独り待つことにした。
場内には、GGG関連の飾り付けとしてであろう、グレン・グールドの色々なスチール写真が、イーゼルに載せて掲示してあった。あの本の表紙になったものや、あのレコードやCDのジャケットになったものなど、何処かで見覚えのあるものが多かった。

僕は、急に空腹を覚えたので、前もって買っておいたパンを食べ始めた。丁度、セルフ式のクロークとして使うカウンターがあったのである。そこに、荷物を置く。
この日は、こうでもしなければ、昼食が取れないスケジュールになるであろうことは、分かっていた。でも、大使館の地下2階でこのようにして食べるとまでは思っていなかったのだけれどもw

さて、午後2時になると、大使館の日本人スタッフだろうか、オスカー・ピーターソン・シアターの扉を開けて、開場です、と告げてくれた人がいた。このときには、僕の他に観客があと2人程いたようである。
シアターの中は、図書館の書庫のようなやや篭った匂いがした。ざっと数えたところ、200人強のキャパがあるようだ。スクリーンには、真っ赤な地に、カナダ国旗をあしらった図案、あと150の数字。(上の写真を、ご参照)

2時半過ぎには、扉が閉められ、先ほどの大使館スタッフの方から、挨拶と作品の説明があった。
この映画『砂の女』は、グレン・グールドが大変愛好した映画であること(僕の知る限りでは、生涯で100回も観たらしい)、またこの映画の音楽を担当した武満徹が、グレン・グールド賞の受賞者であること等等。

この『砂の女』は、言うまでもなく、原作が安部公房。脚本も書いている。監督は、勅使河原宏。草月流の家元だった人である。このあたりが、先程の草月会館が会場となっていることと繋がっているのかもしれない、とも思う。
この映画は、DVDが廃盤となっていて久しい。TVで放映されることも余りないだろう。このような上映の機会がなければ、なかなか観られないのでは、と思って遥々やって来たのだ。ちなみに、入場は無料だった。

ただ、輸入盤であれば、下のようにAmazonなど国内でもBlu-rayを入手することが出来る。北米盤だけれども、地域コードも同じでフォーマットがNTSCなので、そのまま観られるようだ。


『Woman in the Dunes (The Criterion Collection)』 [Blu-ray]

この北米盤の発売元は、クライテリオン。昔の黒澤作品やゴジラなど、古い日本映画のBlu-ray化で、とても評価の高いメーカーである。
さて、この映画『砂の女』。流石に素晴らしい作品であった。砂の流れる様子を暗喩的に表現している映像美は、何とも文学的。ドキリとさせる武満徹の独特の音楽も、期待通りだった。あとは、主演の岸田今日子さん。まさに怪演である…。こんな凄い女優さんだったとは。

こんな、滅多に観られないであろう作品をスクリーンで観賞させて貰えて、満足だった。この日の観客は、結局10人程だっただろう。とても少ないけれども、まあ、平日の日中だったからね。
そして、帰りには、エレベーターを上がったエントランスロビーの外から、おもての景色をニコン P900で撮影しつつ帰った。カナダ国旗が翩翻と風になびく向こうに、東京タワーが聳えている。

うーん、フラッシュを炊いて、国旗を明るく撮れば良かったかな、と感じたのは後になってからだった…。まだまだ修行が足りませぬ。あと、東京タワーなどビル群のアップも、もう1枚、下に。

東京は、なかなかフォトジェニックな街だ。また機会があれば、こうして都内を巡って写真を撮って歩きたいものである。

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