Teodor Currentzis, Conductor and Rebel
(異端の指揮者 テオドール・クルレンツィス)
Provided by DW Euromaxx
Teodor Currentzis, conductor of the MusicAeterna and one of the most maverick champions of the classical music world.
テオドール・クルレンツィス。ムジカエテルナの指揮者にして、クラシック音楽界において最も異端の”ほまれ”を受けている人物のひとりである。
The Greek-born conductor became a Russian citizen in 2014.
このギリシャに生まれた指揮者は、2014年にロシアの国民となった。
With his unusual ideas and demands on his musicians, he tells things his colleagues cannot or will not do.
彼はその並外れた音楽的な着想で、仲間たちが出来ないことや、やらないことを彼の演奏者に要求していく。
“He is like a storm, like a volcano, like a cataclysm.”
「彼はまるで嵐のようでもあり、火山のようでもあり、地殻変動のようでもあります」
“It’s a total devotion to the art, and that’s something that we don’t see so often.”
「芸術に対して全身全霊を捧げている姿は、私たちがそう滅多に見られるものではありません」
Currentzis rehearsing Mozart’s Don Giovanni with his orchestra. The first recording in 2014 was not enough for him.
ムジカエテルナと共にモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」をリハーサル中のクルレンツィス。2014年に最初の録音を行ったが、彼にとってそれは十分なものではなかった。
“Our first devotion is to make music and fill this precious moment of making music, then comes all the other.
「我々が第一に専念すべきことは、音楽を作ることであり、その貴重な瞬間を満たすことなのです。その後で、他のものが全てついてくるのです。
My approach is, if Mozart was in the hall, what he will tell me to do.
私が取っているアプローチとは、もしモーツァルトがホールにいたら、彼は私に何をするように言うだろうというものです。
I’m doing what I believe that most would like to do here in Perm with this orchestra who was here.”
私はここペルミで、このオーケストラと一緒に自分が最もやりたいと信じていることを行っています」
Perm near Russia’s Ural Mountains is an unlikely base for this musical revolutionary to launch his visions on the world.
ロシアのウラル山脈に近いペルミは、この世界的ビジョンを開始する音楽的な革命家には似つかわしくないような拠点である。
In the communist era, the city was the center of the Soviet arms industry and has always been known for its minerals, oil, timber, and freezing winters.
共産主義時代に、この都市はソヴィエトの兵器産業の中心地であった。そして、鉱物や油や木材、それから凍りつくような冬の寒さで常に知られてきたのである。
Currentzis was appointed artistic director of the perm state opera and Ballet Theatre in 2011.
クルレンツィスは、2011年にペルミ国立オペラ・バレエ劇場の芸術監督に就任した。
The MusicAeterna orchestra he founded moved with him to the provincial city in the foothills of the mountains.
彼が創立したオーケストラ「ムジカエテルナ」は、山のふもとにあるその地方都市へ、彼と一緒に移って来た。
DWS Christian Burger accompanied the ensemble during their challenging CD recording.
DWSのクリスティアン・バーガーは、CDのレコーディングを行っている挑戦的な彼らの姿を同行取材した。
“I liken it to a brotherhood or he’s a bit like the leader. There’s almost a religious angle to it. They follow him unconditionally.
「それは兄弟分の間柄に例えることが出来るでしょう。もしくは、彼は指導者のようなものなのです。楽団は無条件で彼に従っているので、宗教に近いような観点で見ることも出来ます。
And four soloists used to traveling from one production to the next. It’s bewildering at first.”
それから、4人のソリストたちは、ひとつの制作から次の制作へと移り変わっていくことに慣れています。最初は戸惑うものですが」
“I’m … I’m trying to keep consent … I like here … keep listen to nonsense sometimes. It’s theater. Die, die…”
“Brave!” [a clap]
「私は…私は同意に努めています…ここが好きですし…時々意味のないことにも耳を傾けようとして…。それは舞台作品なんですよ。もう死ぬ、死ぬ…」
「勇敢だな!」[一回拍手]
The 44-year-old’s excessive control at times pushes the musicians to the limit. But he has nothing to hide from the camera during the shoot, and even shows his more private side.
44歳のクルレンツィスがもたらす過剰なまでの統制は時折、演奏者たちを限界まで押しやっている。しかし彼は、撮影中のカメラから何も包み隠すことなく、むしろ一層個人的な面を見せている。
“I really hope that in the life of the musician exists this, so-called home. Maybe the place you work is his home.”
「私は音楽家の人生において、いわゆる家というものがあれば良いと切望しています。もしかすると、仕事をしている場所とは、その人にとっての家なのかも知れません」
The orchestra has a 14-day schedule for recording Don Giovanni instead of performing the Opera one take, however, the musicians record individual sections.
オーケストラは「ドン・ジョヴァンニ」を録音するために14日間のスケジュールを組んだ。そのオペラを一度に演奏するのではなく、楽器のセクションごとに弾いたものを録音していく。
Time and again until everything is perfect. It’s a working method as unconventional as the conductor himself.
全てが完璧になるまで、何度も何度も。それは、クルレンツィス自身と同じくらいに型破りな方法での作業である。
“He stomps around on stage, sings along, and makes these noises. And that makes life difficult for the sound engineer.
「彼が足を踏み鳴らして歩き回り、曲に合わせて歌うので、これらはノイズになります。そのことがサウンドエンジニアをとても困らせているのです。
And he wears clothes that you’d normally associate with a rock musician. Summer simply bizarre. He wants to be different and provide a different image of classical music.”
彼は、普通にロック・ミュージシャンを連想させるような服を着ています。夏はとても風変わりです。彼は独特の存在でありたいと思い、そしてクラシック音楽の異なったイメージを打ち出していきたいと考えているのです」
“When I’m conducting and becoming the One that was made, or…” [rendition]
「私が指揮を為し、造られし絶対的存在となるとき、あるいは…」[音楽の演奏](了)
[Translated into Japanese by shironeko,2022]
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今回は、本日めでたく50歳の誕生日を迎えた天才鬼才指揮者こと、テオドール・クルレンツィス氏を取り上げた動画(ドイツ国営放送が2016年に制作)の対訳を行ってみました。このマエストロの深奥なる魅力を少しでもお伝え出来れば幸いです。また、クルレンツィス氏は、この動画で見られる以上に思索的および哲学的探求をもってクラシック音楽を演奏しています。そこで上の対訳では最後のモノローグに、その一端を幾分(格好良く)表現してみたつもりですが如何だったでしょうか。
さて、例年であれば、そろそろテオドール・クルレンツィス指揮の最新作に関する何らかの発表がありそうな頃合いなのですが、今のところ何も音沙汰がありませんね…。やはり新型コロナ禍でオーケストラメンバーが集まりにくく、レコーディングが進まないのかも知れません。先達ての投稿で書いた通り、来日公演も中止となりました。このようにして、天才がその才能を遺憾なく発揮できる場を次々と奪っていってしまうパンデミックという災禍は実に恨めしいものでもあります。世界最高水準の芸術を自由に心置きなく鑑賞できる日々が再び来ることを切に願っております…。
『ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92』
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