時代を駆け抜けた、’80年代の中学生テクノポップバンド「コスミック・インベンション」のCDを買って聴いてみた。これは、名盤だ…

僕は、リビングのソファに寄りかかってiPad miniを弄っているとき、YouTubeで動画を観ることがよくある。
主には、FMラジオでふと耳にした音楽をもう一度聴きたいときとか、好きな音楽家の昔々のお宝映像を見るとか、そうやって音楽が関係していることが多い。

殆どの場合、ブラウザーではなくYouTubeのアプリを使って観ている。アプリを開くと、トップ画面にはまず、「あなたへのおすすめ」と称して幾つかのサムネイルが表示される。僕にとっては、案外とこれが便利なのである。
それは、僕のアカウントの視聴履歴を参照して、それと同じ音楽家や同じ曲の別の動画などを機械的に選んで表示しているように思われる。ところが、どういう訳か、それらとは一見して関係のない動画のサムネイルが見られることが時折あるのだ。

もし、それが余りに僕の関心とかけ離れていたら、小さなメニューを出して、「興味なし」を選択しておけば良い。きっとそうやって、YouTube側を学習させるように出来ているのだろう。
「コスミック・インベンション」は、そのようにして、「あなたへのおすすめ」として僕の目の前に現れた。あるとき機械的に選ばれて、ふと表示されていたのである。多分、履歴にYMOが幾つも残っていたので、その(やや迂遠な)繋がりだったのだろうか。

実は、コスミック・インベンションのことは、僕は既に知っていた。でも、リアルタイムでは知らなかった。数年間の分だけ、世代的なズレがあったのである。随分と後になってから、『コンピューターおばあちゃん』の演奏を何かで見たことがある程度だ。
『コンピューターおばあちゃん』は、坂本龍一キョージュがアレンジした、みんなのうたバージョンがとても有名だけれども、コスミック・インベンションは、1981年にその原曲版といえるものを演奏し歌っていた。(下の動画では、緊張しているのか、歌い出しの声が裏返ってしまっている…)


(上は、コスミック・インベンションの『コンピューターおばあちゃん』。作詞作曲者の方も、ちらりと映ります)


(こちらは、みんなのうたの『コンピューターおばあちゃん』。キョージュの編曲と演奏で、コスミック・インベンションは関係していないバージョン)

僕が以前、『コンピューターおばあちゃん』でコスミック・インベンションの歌と演奏を観たときには、いやあこんなローティーンの子たちが随分と頑張ってやっているなあ…くらいにしか思わなかったのである。
でも、今回たまたま、YouTubeの「あなたへのおすすめ」に表示されていた幾つかの動画を見て、僕の認識は少し変化した。頑張っているなあ、どころではなく、ひょっとして結構上手いのかも…と。

2~3の動画をご紹介したいと思う。まず、YMOの武道館コンサート(1980年)で前座を務めた際に演奏した『テクノポリス』。原曲は勿論、YMO。その曲を、中学生5人のメンバーがコピーしているのだ。

パートによっては、旋律がやや走ったりモタったりしてしまうのはご愛嬌。でも、ドラムと、シンセベースは実に上手い。あと、メインでキーボードを弾いていると思しき、ヘッドセットをつけた男子も、非常に指の運びが良いと思う。
実は、この男子、のちの作曲家井上ヨシマサ氏なのだ。嘗ては小泉今日子や中山美穂などなどアイドルのヒット曲を作り、今はAKB48の楽曲で超売れっ子なのだそうである。

(井上ヨシマサ 著『神曲ができるまで』より)

あと、YMO繋がりで、『コズミック・サーフィン』を。これも、元々はYMOの曲だったのだけれども、近田春夫氏が作詞し、ボーカル版に仕上がっている。「きらきら…、しゅわしゅわ…」というこの歌詞がちょっと意味深で、とてもユニークだなw

余談ながら、「コミック・インベンション」の『コミック・サーフィン』って、”cosmic”のsの発音は、一体どっちが良いのだろう?という気がしてくる。いや、英語としては「」が正しいのですけれども…w

これらの楽曲を聴いて感じるのは、メインボーカルの森岡みまさんが、非常に伸びやかで溌剌とした声の持ち主であるということだ。それに加えてドラムも叩いてしまうのだから、実に器用なものである…。
この森岡みまさんは、この当時存在していた日本の楽器メーカー「ファーストマン」の社長である森岡一夫氏のお嬢さんなのだそうだ。道理で、動画の中に映る電子楽器に”FIRSTMAN”のロゴがよく見られるわけである。

このファーストマンは、1970~80年代に、シンセサイザーの分野でローランドと熾烈な競争を展開していたようだ。森岡氏は、コスミック・インベンションのことも含めて、ご自身の年代記をホームページに残しておられる。
時は、電子楽器の黎明期。その数多のページに書かれている様々なエピソードを見るに、当時のシェア争いが余程激烈だったのだろうと想像する。そんな中、森岡氏は実の娘をメンバーに据えたバンド結成に参画したのであった。

コスミック・インベンションは、活動期間が2~3年ほどだった。レコードデビュー後に、女子のメンバーがひとり抜けて、5人が4人となった。その後、1982年には解散となってしまったようだ。
その他のいきさつについては、上述の井上ヨシマサ氏の『神曲ができるまで』を読むと、メンバー間の立ち位置など、様々な出来事があったことが窺える。ひょっとしたら、バンドに大人の事情が色々と介在してしまった、ということもあるのかも知れない。

さて、僕は先週、このコスミック・インベンションのCDを買った。
クラシックの合唱曲を別にして、歌もののCDを購入するのは、はていつ以来のことなのだろう?そのくらい、滅多にないことである。でも、このバンドの歌と演奏をもっと聴いてみたくなり、意を決してポチった。


(コスミック・インベンション『コンプリート・ベスト』)

1曲目は、インストのオープニング曲である。YouTubeでも聴くことが出来る。サウンド的には、先週逝去された東海林修先生のシンセサイザー作品に傾向が近いと思う。そういった音に、初期のYMOっぽいポップなテイストが加わったという雰囲気だ。僕は好きだなあ、これ。

CDを聴き進めていくと、やはりボーカルの森岡みまさんは、他の楽曲でも非常に上手いということがよく分かる。とにかく声がよく伸びるのだ。ちなみに、このCDのライナーノーツには、数年前に行われた森岡みまさんのインタビューが(…あと近影も)掲載されている。
それを読むと、学校が終わるとスタジオに行って、ときには泣きながらレコーディングを行い、ドラムの練習は家で夜中まで…という具合にかなりハードなスケジュールだったようである。

そんないっぱいいっぱいの状況だったとは思えない程、実にのびのびと歌っている。他のメンバーも含め、中学生とは思えないくらいに演奏も上手い。
この『コンプリート・ベスト』は、コスミック・インベンションの楽曲を全曲収録している。オリジナルアルバムの分と、あとシングルの分である。加えて、『コズミック・サーフィン』など4曲のインストバージョンもボーナストラックとして収められているのだ。実に、お買い得である。

ネットオークションなどの中古市場を見ると、コスミック・インベンションのオリジナルアルバムのLPやCDは、今でも高値で取引されているようだ。コレクション目的ではなく、音楽を聴くということであれば、この『コンプリート・ベスト』で十分だろうと思う。
透明ケースからCDを外すと、上の写真のように、アルバムと各シングルのジャケットやライナーのアートワークを見ることが出来る。こういったところにも、購入者に対する、制作スタッフの細かい配慮が感じられる。

さてさて、色々と思いつくままに書いていたら、ついつい長くなってしまった。’80年代の短い時期に、まるで速足で駆け抜けるかのようにして登場し去って行った、コスミック・インベンション。
この当時は、今では多分信じられない程に、巷には何処も音楽が溢れ、世代を超えて誰もが知る名曲や流行歌というものがあった。コスミック・インベンションは、そんな時代の片隅に実に小さく、可愛らしく咲いていたのだろうと思う。

でも、決して埋もれることなく、今もこうして残っている。CDが新たに編集され発売されていることが、その証左だと思う。きっと、時代を超えて多くの人たちに聴き継がれているのだ。
このCDには、そんな普遍的な歌や音や、音楽が詰まっている。僕は、YMOや東海林修先生のCDを聴くようにして、これからもコスミック・インベンションの『コンプリート・ベスト』をずっと聴き続けるのだろう。そう、感じている。

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