数ヶ月前の、ある日の朝…。
車を運転しているときのことだった。ラジオでふと、NHK-FMをかけたら、ピアノ協奏曲が流れていた。
曲調や旋律から、ラフマニノフのそれであることは、すぐに分かった。どうも、ピアニストは男の人だという気がする。
演奏がとても力強く、オケに全く引けを取らない、と言うよりも、むしろよく引っ張っているなあ、と聴こえたからだ。
ああ、このピアニストはきっと、アシュケナージあたりなのだろう、とも思った。それくらいの、名人芸だったのだ。
でも、アシュケナージにしては、この演奏は激しすぎるだろうか。
早速、帰宅してから番組表で曲目を調べてみた。やはり、ラフマニノフのピアノ協奏曲だった。第2番である。
オーケストラはロンドン交響楽団、指揮はマイケル・フランシス。ほほう、ロン響だったのね…。なるほど、と僕は宙を見遣る…。さて、ピアニストは誰だったのかな、と番組表に再び目を落とす。
ヴァレンティーナ・リシッツァ、と書いてあった。…ん、誰それ?という感じである。このとき初めて、僕はヴァレンティーナ・リシッツァというピアニストを識ったのだった。
ネットでプロフィールや写真を探してみると、ヴァレンティーナ・リシッツァとは、ウクライナ出身の、そして眩い金髪の、意外にも、女性のピアニストであった。
(上の2枚の出典:https://www.facebook.com/ValentinaLisitsa/)
若くも見えるけれども、今は40歳を少し過ぎているのだそうだ。…ということは、くだんの、ラフマニノフの2番は、30代のときの演奏だろうか?いずれにしても、アシュケナージのような、老練の大御所の男性ピアニストではなかったのだ。女性で、あの力強い演奏だ…。
それまで、僕は、女性ピアニストと言えばもう、マルタ・アルゲリッチ、オンリーであった。
基本的にピアノは(その楽器が持つ打楽器性ゆえに)、男の腕力と体格でなければ十全には弾きこなせないだろうと、ふだん僕は考えている。
そして、もし女性であれば、(例えばアルゲリッチのように…)まるで男のような性根か体躯でも持ち合わせていない限り、なかなか叶わないのではないか、とも思っているからだ。
そこで、このヴァレンティーナ・リシッツァである。YouTubeで幾つかの動画を見て、この人は、どうも結構な大柄のようだ、ということが分かった。
ピアノの鍵盤が、やや低く見える。猫背で弾いている。つまり、余程背が高いのであろう。どことなくシャラポワを彷彿とさせるような(?)、体格の良さを感じる。
そして、ピアノの打鍵が、時として、とても力強い。手も指先も、実に器用に、また繊細に動く。僕は、このピアニストの演奏ぶりに、すっかり魅了されようとしていたのだ…。(次に、つづく)
(上の動画は、ヴァレンティーナ・リシッツァによる、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番 第3楽章」ピアノ部分の独奏。ピアノは、ベーゼンドルファーを使っているのが見て取れる)
…..
いちばん上の写真は、リシッツァの『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集』を、そのとき買ったワインと一緒に撮ったもの。2月ごろ撮影。昨年買いそびれた新酒のワインが、まだ売られていたので、喜び勇んで買ったのでしたw
ヴァレンティーナ・リシッツァ『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集』(2CD)
…..