前回書いた通り、夏期講習の仕事の前半と後半の間にある休みを利用して、山に登ることにしたのである。折良く、山登りに適した靴も出てきた。きれいに磨いて準備したのだ。
バッグは、丁度良いリュックサックのようなものがない。どれも、縫い目やらチャックやら、多少壊れているのである。どうしようか、と思っていたら、たまに仕事用として使っている深緑色のショルダー式のバッグに、実に好都合なものを見つけた。
裏面のチャックの中から、リュックサックとしても使えるような、ショルダーストラップがふたつ出てきたのだ。つまり、このバッグは、ショルダーバッグとしても、リュックサックとしても使える設計だったのである。
横のものを縦にして利用する感じなので、やや不格好だけれども、容量は十分にあるバッグなので、その点では便利だ。これに決めた。この中には、カメラの三脚や、Tシャツおよびタオルを3枚、飲み物3本などを入れた。
飲み物は、まずペットボトルの水1本。水は、飲むだけでなく、怪我をした箇所の洗浄など非常時にも使えるので、是非とも1本は必要だ。あとは、2倍に薄めた、ポカリスエット。モンベルのクリアボトル2本に入れる。
薄めたポカリスエットは、前日からフリーザーに入れておき、凍らせて持って行くことにした。僕は、濃い味のジュース類は、飲んだ後に余計渇きを覚えてしまう。程良く薄めた上に十分冷えていれば、最強なのであるw
あとは、勿論、ニコン P900も持参する。これは、いつものソフトケースへ付属品一式と共に入れ、更にオレンジ色のショルダーバッグの中へ。つまり、バッグは2つになったのである…。
家族からは、そんなに沢山の荷物で登れるの?と言われたけれども、大丈夫。僕は、子供の頃から、大きなリュックを背負って標高2000〜3000m級の山を幾つか登って来た。だから、慣れているつもりだ。
僕の育った長野県では、小学校でも中学校でも、登山が学校行事として実施されていた。小学校低学年のときには太郎山という1000m余りの山に登った。高学年になったら、美ヶ原。これは、約2000mだ。
中学生になると、北アルプスの3000m弱の山に登る行事がある。そのとき、岩石だらけの登山道を歩きながら、先生が女子生徒たちに、「君たちは将来、山に連れて行ってくれないような人を彼氏にしちゃいかんよ」と仰っていたのを覚えている。
まあ、山登りはそのくらいに普通のことだったのだろう。僕の父も登山が趣味のひとつだったので、弟と3人で、木曽の御嶽山に登ったこともあった。これは、3000mを超える山だ。
でも、長野県を離れて住むようになってから、僕は登山をしなくなっていた。他にやることが幾らでも出来てしまったからだ。でも、前回書いたように、夏になると、どうも山登りの血(?)疼くのである。
今年は特に暑い夏なので、この疼きが強かったように思う。自分の中の何ものかが、森へ林へ、山へ連れて行けー、と騒ぐ。そこで、重い腰を上げて、この度の山登りへ至ったという訳だ。
登ることにした山は、東京都にある、高尾山だ。標高600m弱である。僕が子供の頃に登って来た山とは一桁違う。でも、僕にはブランクがあるので、この山が打ってつけだろうと思った。
高尾山には、難易度に応じて、登山道のルートが幾つも設定されている。ケーブルカーに乗り、舗装された道を歩いて登る、というルートもあるらしい。でも、僕は、自然の中を掻き分けた山道を辿って行くルートを選んだ。6号路である。
ガイドブックなどを見て、このルートの風景が、木曽に住んでいた祖父母の家の、裏山のそれに近いと感じたからだ。いつも川がそばにあるというのも良いと思った。如何にも涼しげなので、この季節にはぴったりだろう。
トップの写真は、京王線の高尾山口駅。午前9時頃に着いた。ここからスタートである。この駅舎の左側にある歩道を歩いて行く。既に、多くの人たちが来ていた。
こうして、前の人たちについて行くようにして進む。この辺りは店や民家も多く、路面が舗装されている。まだ、山という感じではない。でも、森林はすぐ目の前に広がり、山は大きく聳えているのである。
上の写真の建物は、リフトやケーブルカーのターミナル。このまま、この建物の左側を真っ直ぐに抜けて行く。すると、横に川の流れている道へと続くのである。
高尾山は、霊峰だ。信仰の山である。そのためなのか、上のようにお地蔵さんが集まった一角があった。この辺りを境にして、周囲に樹木が多くなり、一気に山らしい風景となって来た。
この辺りも、まだ舗装路。そばには川が流れているので、シャワシャワとしたせせらぎの音が、実に心地良い。近寄ってみると、飛沫のせいか、随分と涼感がある。とても冷んやりとするのだ。
下の写真は、「稲荷山コース」という、6号路と並行している別の登山道の入り口。僕は、最後まで、この稲荷山コースと6号路のどちらを登ろうかと迷った。結局、決め手は川だった。川がずっとそばで流れている6号路を選んだのである。
または、往路は6号路で、復路は稲荷山コースで、という具合にも考えたのだけれども、高尾山の後に、隣の山を更にふたつ登って行くことに決めたので、今回は帰り道にも、稲荷山コースを歩かなかった。次回のお楽しみとしておきたいと思う。
この辺りから、山はすぐ眼前となって来る。森林が手の届くところに、何処までも広がっている。その奥行きたるや、途方もない。嗚呼、本当に木曽の山も、こんな風だったのだ…。
上の写真は、6号路の入り口。ご覧のように、砂利道で始まっている。舗装されていなくても、これならば歩きやすそうだ、と思うけれども、実はこの砂利道もすぐに終わってしまうのである。
あとは、土と岩石で出来ていて、たまに高木の根っこが横たわっている、幅の狭い登山道が果てしなく続くのだ…。いいぞ、いいぞ。これぞ、山登りという感じである。そして、隣にはいつも、川のせせらぎがある。山好きには何とも幸せなルートだろう、と思う。
山肌に見える、こうした苔とシダの葉っぱも、木曽の山とおんなじである。僕は、ウキウキとした気分になって来て、つい足早になりそうになる。いかんいかん、ペース配分を考えないと…。(次回に、つづく)
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今回の山登りのために、日帰り登山やハイキングの本を10冊くらい読みましたが、高尾山に関しては、2冊の本がとても参考になりました。そのひとつは、これ。定番(?)のるるぶですね。幾つもある高尾山の登山ルートの解説が詳しいです。地図や写真も見やすくて豊富。これ一冊でだけで、十分なくらいかも。
『るるぶ 高尾山』
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