ここ毎年は、11月になると花を植えている。身罷ったねこの花園にパンジーやビオラを咲かせるためである。寒さに強い花なので、春まで鑑賞できるのだ。
もう先月のことになるけれども、下旬になってから、その花を漸く買いに出掛け、植え替えを行った。これまでなかなか時間を確保できなかったけれども、どうやら11月中に間に合った。
いつものように、300円で5つの苗がセットになっているものを選んだ。花屋の老夫婦は奥のTVで韓国ドラマに夢中のようであった。
僕が500円玉をそっと差し出すと、「どうもありがとねー」と、お釣りの200円を寄越してくれた。去年だっただろうか、確かお昼ご飯を食べていたこともあった。ざっくばらんな店なのである。
さて、帰宅すると早速、植え替えの作業に入った。土を幾分掘り起こし、石灰を混ぜた。そこに化成肥料を撒いて、苗をひとつひとつ据えていく。なるべく周囲の木の陰にならないよう配置しながら。
花園の中には何故か、カラスノエンドウが進出して根を張っていたので、それを避けることも必要だった。
でも、その赤く小さな花は、パンジーやビオラと一緒に撮影すると映えて見えた。接写で撮ると、いずれも実に可愛らしいのである。これもまた一興だろう。抜かずにおいて正解だったと思う。このまま日々、水を遣りつつ育てていくことにしよう…。
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さて、これも先月下旬のことになるけれども、「シネマコンサート」なるものに生まれて初めて行ってきた。
僕の記憶する限りでは、もう何年も前にチャップリンの映画を生オーケストラの演奏で観せるというのが、最近よく見かけるこの種の企画の鏑矢ではなかっただろうかと思う。
シネマコンサートにいつか行ってみたいと考えあぐねている内に、遂に僕の大好きな作品が取り上げられることとなったのである。これは千載一遇のチャンスだと思った。
アニメ映画の『さよなら銀河鉄道999』だ。松本零士先生の大ヒットSF作品の80年代における完結編である。
再会と別離をテーマに据えた物語もさることながら、故 東海林修先生の手による本格的な交響詩である劇音楽が大変に素晴らしい。これを生オケで観ない手はないではないか。
今回のシネマコンサートは、この999の第1作目の映画とセットである。どちらの作品も2時間を超える長尺の作品なので、合計で5時間近くにも及ぶ上映だ。ちなみに、休憩時間なども含めると、開演から終演まで全部で何と8時間である。
これは如何にも素晴らしい「999漬け」の一日なのである。僕は大きな期待を抱いて出掛けて行った。そして、当日…。
果たせるかな、第1作目『銀河鉄道999』の映画が開始され、音楽の第一音が舞台上のフルオーケストラから豪勢に鳴った途端にもう、僕の両眼は感涙こみ上げることとなったのである。これは、控えめに言っても最高の、いや正しく究極の映画体験だと感じたのだ。
会場は東京オペラシティ、タケミツメモリアルと呼ばれるコンサートホールだ。所謂、シューボックス型と呼ばれる、奥行きのある長方形のホールである。
それ故か、響きは極上。僕が座った右側の2階席でも十分な音響を堪能することが出来た。きっと、このホールではどの席に座っても豊かに聴こえるのだろう。そう感じられる程であった。
(『さよなら…』の開演前、僕の席からの眺め。スクリーンもオケもよく見渡せる)
上映は1時間でインターミッションが入った。つまり、休憩時間である。これもまた昔の銀幕時代の映画上映のようで良いアイデアだ。
インターミッション後は、前半で演奏した楽曲のメドレーを、プレリュードとしてオーケストラが数分間かけて再び聴かせてくれるのである。それから後半の上映が始まるのだ。実に嬉しいファンサービスだと思う。
(インターミッション中。場内アナウンスは鉄郎やメーテルの声で行われたのが楽しい)
それから、何よりも驚いたのは指揮者の栗田博文さんの仕事ぶり。ちなみに、栗田さんは、坂本龍一キョージュのオーケストラコンサートでも指揮を務めたことがあるので、僕にはその点でお馴染みの方だ。
この栗田さん、何といずれの劇中曲も、ピッタリのタイミングとテンポで曲を鳴らし、ジャストのタイミングで終わらせるのである。一体どうしてそこまで上手く映像と合わせらるのか、僕にとっては実に興味深くもあり、その職人的な仕事に驚嘆しっぱなしであった。
それから、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。日本で最古と言われる、歴史あるオーケストラである。音の良さには勿論、定評があり、今回のシネマコンサートでも、それは十分に堪能できた。ときに、映画の音声(台詞や効果音)を圧倒する程である。
就中、『さよなら銀河鉄道999』では、クラシック音楽的とも言える壮大で叙情的な劇伴が実に流麗に奏でられていた。特にこの作品の熱烈なファンである僕は、亡き東海林修先生のことも思いながら、映画と音楽の形成する大宇宙に没入したのであった。
(コンサートホールの名を冠している、武満徹を記念したプレートが掲げられていた)
いやあ、いくら書いても書ききれない程に、この日のシネマコンサートは大変に劇的かつ貴重で、文字通り最高ランクの映画体験および音楽体験だったのだ。僕は『さよなら…』のシネマコンサートは兼ねてから望んでいたことだったので尚更であった。
いつかまた、このタケミツメモリアルでこの種の企画があったら、是非とも足を運んでみようと思っている。勿論、きょうと同じく栗田さんと東京フィルハーモニーの組み合わせで!と心から願いながら…。
そうそう、このシネマコンサートでは来場者への特典として、上の様な特製カード型入場券が手渡された。日付や会場名だけでなく、一枚ごとに其々の席番号が刻印されている、まさに自分だけのカードなのである。
いやあ、これは手が込んでいるなあ嬉しいなあ、と感じると同時に、終演後も手渡しスペースのテーブルにまだ何枚も残っているのを見かけた。貰い忘れている人がいたようなのだ。実に勿体無いことである…。
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上述の通り、開演前や休憩中の場内アナウンスは、主人公の星野鉄郎やメーテルの声でした。例えば(メーテルの声で)「鉄郎、開演中の録音や撮影は絶対に禁止よ。分かった?」とか「開演5分前よ。あらあら鉄郎ったら、どこへ行ってしまったのかしら」などなどのような具合です。これは聞いていて、とても楽しかったですね。
それから、その間のスクリーンでは、映画版999の4Kリマスター版の映画館における上映やBlu-rayの告知映像が流れたこともありました。比較画像を見ると、その色鮮やかさなどは一目瞭然で、999の映像世界が更に美しく際立っていました。僕はやはり『さよなら…』の大ファンなので、来年発売予定のBlu-rayを買ってしまうかなあ…と今から思案をしております。
『さよなら銀河鉄道999-アンドロメダ終着駅- 4Kリマスター版 (4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc 2枚組)』
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