トップの写真は、日曜日の朝に撮った、ちいーの園である。前日のあられや雪を被っているのだ。
花の上にこんなにも冷たいものが乗っかって、さぞやビオラは萎れているだろうと思いきや、この後の晴天ですっかり雪は融け、花は元気そのものであった。次に咲く蕾もまだまだある。春まで頑張って欲しいものである…。
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ゆうべから今朝にかけて、この辺りでは風が強かった。きょうも僕はいつものように、早朝の仕事へと自転車で繰り出した。仕事場では、建物の奥の方にある屋根付きの駐輪場に停めておくことになっている。
この駐輪場には生憎と壁がないので、今朝のような風が強い日には、仕事をしている間に自転車がなぎ倒されていることがある。それは、数台だけのこともあれば、殆ど全部ということもあるのだ。
今朝は、2台だけが倒されていた。幾分、控えめな風だったらしい。その2台の内の1台は、Iさんという60歳くらいのオジさんのものだった。仕事が終わり皆んなで一斉に帰る頃、Iさんは駐輪場で自分の自転車を押した。
跨って漕ぎ出そうとするや、前輪の方からギイーという強い音が鳴って、前に進まない。見ると、前輪を覆う泥除けの下の方が歪んでしまっていた。それがタイヤに干渉しているのである。
どうやら、Iさんの自転車が強風に倒された際、この泥除けの部分が圧迫されたのだろう。倒れていた自転車は2台だったので、これらが将棋倒し状になって、何か複雑な力学が働いたのかも知れない…。
取り敢えず、Iさんは自転車から降り、その泥除けの曲がった部分を掴んで引っ張る。どうもビクともしない。材質は薄手のスチールなのだけれども、結構硬いのである。
隣で見ていた僕も加勢した。僕は別の部分を押して、泥除けと前輪の間に隙間が出来るように試みた。そのようにして、前輪が回りさえすれば、Iさんは走り出せるのである。しかし、やはりビクともしない…。
Iさんと僕の他にも人が数名、集まり始めた。皆んな、これから帰るところである。自転車を見て、口々にこれは難しそうだね…と言う。そうだ、Yさんに頼めば良い、と言う人もいた。
Yさんは、以前このブログの投稿でも登場したことのあるオジさんである。お話好きの人で、本業は自転車屋さんなのだ。Yさんならば何とかしてくれるかも…。そう言っている側から、Yさんが駐輪場へと現れたのだった。
でも、ここは自転車屋さんの店先ではない。いまYさんは何の道具も持ち合わせていないだろう。この泥除けの状態を見たところ、バールかレバーのような硬い棒状のものが必要のようである。僕は、そんな気がした。
Iさんは早速、数m向こうにいるYさんに手を振って助けを求めている。Yさんは小走りで近寄って、前輪の泥除けをちらりと見た。すると、少し前屈みになり、指の太い大きな手で、その泥除けをむんずと掴んだのである。
もう一方の手は、自転車のカゴかハンドルのあたりを持っていた。その体勢のまま、Yさんは約1秒間静止したかに見えた。そして、自転車から手を離し、また直立の状態に戻ったのである。口を真一文字に結んだ無表情であった…。
僕はこのとき、Yさんは泥除けを触ってみて様子を確かめたのだろう、と思った。それで、次のアクションとして、何か道具を探すのだ、と。嗚呼、流石のYさんでも直ぐには手に負えないよね、これは…と、その瞬間に感じたのである。
しかし、どうであろう。その直後、Iさんが自転車を押してみると、あの異音はすっかりと消えていたのである。完全に直っていたのだ。これには驚いた!
Iさんと僕が数分間、あーでもないーこーでもないと言って押したり引っ張ったりして直そうとしていたものを、Yさんはほんの1秒くらい触っただけで完治させてしまったのだ。
僕は思わず、「ゴッドハンドだー」と呟いていた。どうにも軽薄な表現なのだけれども、このときはそうであるとしか言いようがなかったのである…。
実に素晴らしいプロの技を目の当たりにした。Iさんの話では、以前Yさんに前輪のタイヤ交換をお願いしたら1分でやってくれた、と言うのである。まあ、流石に1分は大袈裟かも知れないけれども、きっとほんの数分だったのだろう。
僕も、自分や家族の自転車のパンクなどを直すことがあるけれども、ものの数分というわけにはいかない。時間は掛かるのである。そういった作業時間の短さも、職人技のひとつだろう。
しかし、今回の件で僕がいちばん驚いたのは、一見してYさんは直しているように見えなかったのに実はもう直っていた、ということなのだ。前屈みになってちょっと泥除けを掴んでいる、そのようにしか見て取れなかったのである。
でも、実は非常に効率の良い力の入れ方をしていて、すっかりと元の形に戻していたというわけなのだ。このさり気なさがニクい程である。Yさんは、この後の皆んなの賞賛の中でも、無表情であった。普段は割とニコニコとしているのにw
きょうは斯様にして、朝から清々しくも素晴らしいものを見せて貰った、そんな気分なのである…。
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さて、最後にきのうの日中に撮った写真を。自衛隊のヘリコプター、2機編隊である。いつもであれば、うちの真上か数km先の上空を通過することが多いのだけれども、この日は幾分離れたところを飛んでいた。
従って、機影が小さく、手前の電線や桜の木の枝が一緒に写り込む。まあ、これはこれで面白い構図だろう、という気がする。重低音が効いたエンジン音は、距離があるとは言え、いつものようによく聞こえた。
2機はそのまま西の方へと進み、遠くにある送電線の鉄塔の向こうへと差し掛かった。その鉄塔を入れて、もう1枚。ヘリコプターにも鉄塔にも、それぞれの機能美があるのだ…。
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先月末に買って以来、日曜日毎に1章ずつのペースでゆっくりと読んでいっている、『ファクトフルネス』。これが、すこぶる面白い。Amazonでは目下、総合順位で1位とか2位とからしい。さもありなんである。
まあ要するに、大きな意味での情報リテラシーの教科書のような内容の本である。我々が如何に、分厚い先入観を持って物事を見ているのか、というわけなのだ。
日本語訳の上手さもあると思うけれども、文体が軽くて、とにかく読みやすい。本当は、結構重大な内容の話なのにw あと、ハードカバーにせず、ペーパーバック風に仕上げた装丁も良いと思う。とにかく、うちも外もカジュアルなのだ。
そんな訳で、週末につい手が伸びてしまう本。著者が存命でないのが、実に惜しい。こんなに面白くても、続編や次回作はもう期待できないからである…。その分だけ、この1冊は必読となってくるだろうと思う。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
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